『13歳からのアート思考』:正解のない時代に、自分だけの「ものの見方」を養う本
中高生向けと侮るなかれ!正解のない時代に、常識を疑い、自分自身の視点を持つ方法を教えてくれる、大人にこそ読んでほしいベストセラー。
はじめに:「アート」は美術室の中だけにあるわけじゃない
自分には絵の才能がないからアートは関係ない。そう思っている人にこそ向けて書かれたのが『13歳からのアート思考』(末永幸歩 著)です。絵の描き方や美術史の年号を覚えるための本ではありません。アーティストたちがどのように世界を観察し、常識を疑い、新しい価値を生み出してきたのか。その思考のプロセスを追いかける本です。
書誌:正式な書名は少し長めです
本書は2020年にダイヤモンド社から刊行されました。正式な書名は『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』で、通称として「13歳からのアート思考」と呼ばれています。本文は330ページを超える四六判で、見た目のとっつきやすさに反して読み応えのある分量です。刊行後は美術書としては異例の広がりを見せ、ビジネス書の棚にも並ぶ一冊になりました。
著者について
著者の末永幸歩は美術教師です。武蔵野美術大学で造形を学んだのち、東京学芸大学の大学院を修了し、中学・高校の美術教員として教壇に立ってきました。本書の刊行時には東京学芸大学の個人研究員も務めています。つまり本書は、美術史の研究者でも評論家でもなく、「美術の授業を実際にやっている人」が書いた本です。各章が授業の形式(クラス)で進むのは、著者の職業がそのまま構成になっているからです。
内容の骨格
本書は6つのクラス(授業)で構成され、それぞれ20世紀を代表するアーティストの作品を教材にします。取り上げられるのはマティス、ピカソ、カンディンスキー、デュシャン、ポロック、ウォーホルの6人です。時代順に並んでいるため、読み進めるうちに20世紀美術がどう変化していったのかも自然に頭に入ります。
1. 6つの名作をめぐる推理小説のような展開
彼らの作品は一見「ただの落書き」「ただの便器(デュシャンの「泉」)」に見えます。その作品が一体何を壊し、何を生み出したのかという謎を、読者と一緒に解いていく形式です。
2. 「自分だけの答え」を見つけるトレーニング
アーティストたちは他人の敷いたレールを走らず、自ら問いを立てて表現を生み出しました。本書はその姿勢を、日常の当たり前を疑う思考の型として提示します。
3. 美術館での「正しい鑑賞法」からの解放
著者は、解説文を読んで理解しようとする前に、まず自分の目で見て何を感じたかを大切にしようと語りかけます。美術鑑賞のハードルを下げてくれる一冊です。
どんな読者に向くか
タイトルどおり中学生から読めますが、実際の読者の中心は大人です。予備知識は一切不要で、むしろ美術史の知識がないほうが素直に楽しめます。各クラスに問いかけと課題が挟まる作りのため、拾い読みより通読向きです。逆に、美術史を体系的に学びたい人には向きません。扱われるのは6人だけで、通史としては大きく欠けているからです。その用途にはゴンブリッチ『美術の物語』のような概説書が適します。
この本ならではの点
類書の多くは「アートを知識として教える本」ですが、本書はアートを題材にした思考のトレーニング本という位置づけです。作品の正解を教えるのではなく、読者自身に問いを立てさせる。美術入門書とビジネス書のあいだに立つこの立ち位置が、幅広い読者を得た理由でしょう。
関連して見に行けるもの
読後は、20世紀以降の作品を常設で見られる館が最適です。東京国立近代美術館は日本の近現代美術を軸に20世紀の作品を通覧でき、大阪の国立国際美術館は国内外の現代美術を継続的に展示しています。金沢21世紀美術館は現代アートに特化した館で、本書を読んだあとの「問いを立てる」鑑賞を試すのに向きます。倉敷の大原美術館は、本書に登場するジャクソン・ポロックの作品「カットアウト」を所蔵しています。
まとめ
知識や正解を瞬時に引き出せる時代に、人間に残るのは自分だけの視点で世界を見る力です。『13歳からのアート思考』は、凝り固まった見方をほぐしてくれる一冊です。
Kindle版:「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
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