抽象表現主義:戦後、美術の中心をパリからニューヨークへ奪ったアメリカの叫び
第二次世界大戦後、ポロックやロスコらニューヨークの画家たちが打ち立てた抽象表現主義。巨大なキャンバスに込められた個人の感情の爆発が、美術の中心地をパリからニューヨークへと移動させた。
はじめに:巨大なキャンバスに、感情をそのまま叩きつける
抽象表現主義(ニューヨーク派)は、第二次世界大戦後の1940年代後半から1950年代にかけて、アメリカ・ニューヨークを中心に展開した美術運動です。ジャクソン・ポロックに代表される「アクション・ペインティング」は、キャンバスを床に置き、絵の具を滴らせたり飛び散らせたりすることで、画家の身体的な動きそのものを絵画に刻み込みました。一方、マーク・ロスコに代表される「カラーフィールド・ペインティング」は、巨大な色面をキャンバスいっぱいに配置し、見る者を色彩の中に包み込むような瞑想的な体験を作り出しました。手法は対照的でも、両者に共通するのは、具体的な形を描かず、絵画そのものによって個人の内面を表現しようとする姿勢です。
時代背景:戦争がヨーロッパから奪い、アメリカへ運んだもの
第二次世界大戦以前、美術の中心地は疑いなくパリでした。しかし戦火を逃れた多くのヨーロッパの前衛芸術家たちがニューヨークへ亡命したことで、シュルレアリスムの自動筆記の技法などが若いアメリカの画家たちに直接伝えられました。戦後の好景気とアメリカの国際的な発言力の高まりも後押しとなり、ニューヨークは初めて世界の美術の中心地としてパリに取って代わります。抽象表現主義は、アメリカが生んだ最初の国際的な美術運動として、冷戦下における「自由の象徴」としても政治的に利用されました。
3つの見どころ
- ポロック「ナンバー1」シリーズ: 絵の具を滴らせる「ドリッピング」技法による、中心も上下もない網の目状の画面。画家の身体の動きの軌跡そのものが作品となっています。
- ロスコの色面絵画: 輪郭のぼやけた巨大な色の矩形が、静かに重なり合う作品群。ロスコ自身は「悲劇、恍惚、運命を描いている」と語り、単なる色彩の配置を超えた精神性を追求しました。
- ウィレム・デ・クーニング「女性」シリーズ: 完全な抽象と具象の間を揺れ動く、荒々しい筆致による女性像の連作。抽象表現主義の中でも異色の、暴力的なまでのエネルギーを放っています。
