ヤコブ・ファン・ロイスダール:雲と風車と墓地、オランダ風景画の最高峰
画面の三分の二を占める雲、荒野の風車、廃墟の墓地。ロイスダールの風景は単なる景色ではなく、自然の力と人生の無常を語る「思索する風景画」です。ゴッホも敬愛した巨匠です。
はじめに:風景に「精神」を吹き込んだ人
ヤコブ・ファン・ロイスダール(1628/29-1682)は、オランダ黄金時代の風景画家です。ハールレムに生まれ、生涯風景だけを描き続けました。地図のような記録でも理想化された夢でもなく、雲の重さ、木々のざわめき、水の流れといった自然の生命そのものを描いたその画面は、オランダ風景画の頂点と評されます。
生涯:絵に囲まれた家に生まれて
父イサークは額縁師であり画商でもあり、叔父のサロモン・ファン・ロイスダールは当時すでに名の知られた風景画家でした。絵が日用品として売り買いされる家に育ったことが、この画家の出発点です。10代のうちにすでに署名入りの作品を残し、1648年、20歳前後でハールレムの聖ルカ組合に加入しています。
1650年頃、画家ニコラース・ベルヘムとともにオランダ東部からドイツ国境のベントハイム地方へ旅をしました。丘と城と鬱蒼とした森という、平坦なオランダにはない光景がここで手に入り、以後の作品に繰り返し現れます。1650年代半ばにアムステルダムへ移り、1682年に没するまでそこで制作を続けました。弟子には、もう一人のオランダ風景画の巨匠マインデルト・ホッベマがいます。
絶対に知っておきたい!3つの見どころ
1. 「ワイク・バイ・デュールステーデの風車」——国民的風景
低い地平線の上に立つ風車と、画面を支配する巨大な雲。オランダという国の風土そのものを一枚に凝縮したこの絵は、同国でもっとも愛される風景画のひとつで、アムステルダム国立美術館の看板作品です。雲の動きが生む光と影のドラマに注目してください。
2. 「ユダヤ人墓地」——風景の中の哲学
朽ちた墓石、枯れた大木、廃墟、そして虹。実景を組み替えて構成されたこの画面は、死すべき人間と再生の希望を語る寓意的風景の傑作です。ゲーテはロイスダール論を書き、彼を単なる写生家ではなく「思索する芸術家」として称えました。デトロイト美術館とドレスデン国立絵画館に、それぞれ異なるバージョンがあります。
3. ハールレム遠望——空が主役
故郷を遠望する連作は「ハールレンピング(ハールレム図)」と呼ばれ、画面の大半が雲に覆われ、地上には麻布の漂白場が光の斑点のように点在します。「オランダの空」を発見したこの視線は、後のコンスタブル、そして印象派へ流れ込みます。
画風の特徴
ロイスダールの絵を他と分けるのは、まず地平線の低さです。画面の三分の二以上を空が占め、雲が主役として動きます。もうひとつは、自然の「時間」を描いたこと。折れた木、崩れた城、勢いを増す滝、切れ間から差す光——どれも変化の途中にあり、静止していません。同時代の風景画が眺めの美しさを売ったのに対し、ロイスダールは自然の力そのものを画題にしました。色調は緑と褐色に灰色を効かせた渋いもので、そこに一条の陽光が落ちるときの効果は絶大です。
代表作
- ベントハイム城(1653年/アイルランド・ナショナル・ギャラリー)
- ユダヤ人墓地(1650年代/デトロイト美術館、ドレスデン国立絵画館)
- ハールレム遠望(1670年頃/マウリッツハイス美術館、ハーグ)
- ワイク・バイ・デュールステーデの風車(1668-70年頃/アムステルダム国立美術館)
- 砂丘と小さな滝のある風景(国立西洋美術館)——日本で見られる初期の一点。
日本で見られるか
見られます。国立西洋美術館は「砂丘と小さな滝のある風景」を所蔵しており、ハールレム近郊の砂地の森を描いた初期作です。同館は「樫の森の道」も収蔵しています。静岡県立美術館もロイスダール作品を所蔵しており、風景画をテーマに据えた同館のコレクションの中で見ると、クロード・ロランやターナーとの比較が楽しめます。東京富士美術館は叔父サロモン・ファン・ロイスダールの「宿の前での休息」を所蔵しており、一族の作風の違いを知る手がかりになります。
初心者が楽しむための鑑賞のコツ
雲を分類する:積雲、雨雲、薄雲——ロイスダールの空は気象図のように正確です。天気を読みながら見ると解像度が上がります。
ゴッホの手紙と:ゴッホは手紙で繰り返しロイスダールに言及しました。「暗いオランダ」の系譜が、やがて南仏の光に至る物語として辿れます。
まとめ
ロイスダールは、風景画を「魂の風景」に変えた画家です。曇り空の似合う絵の深さを、ぜひ体験してください。
代表作ギャラリー








作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)