ルシアン・フロイド:容赦なき筆致で肉体を暴いた、20世紀具象絵画の巨匠

ルシアン・フロイド:容赦なき筆致で肉体を暴いた、20世紀具象絵画の巨匠

画家

精神分析学の祖ジークムント・フロイトを祖父に持ちながら、絵筆一本で人間の肉体と精神を執拗に見つめ続けたルシアン・フロイド。生存中の画家として史上最高額を記録した「ベネフィッツ・スーパーバイザー、眠る」の作者。

はじめに:容赦のない眼差しで肉体を見つめた画家

ルシアン・フロイド(1922-2011)は、20世紀後半のイギリスを代表する具象画家です。精神分析学の創始者ジークムント・フロイトを祖父に持ちながら、心理描写ではなく徹底した観察に基づく肉体表現によって独自の地平を切り開きました。厚く盛り上げた絵具と執拗なまでの筆致で、モデルの皮膚や脂肪、老いの痕跡までも赤裸々に描き出す作風は、しばしば「美化しないリアリズム」と評されています。

生涯:ベルリンからロンドンへ、そして具象絵画への回帰

ベルリンでユダヤ系の建築家の家庭に生まれたフロイドは、ナチスの台頭を受けて1933年に一家でイギリスへ移住しました。青年期はシュルレアリスムの影響を受けた作品を手がけましたが、1950年代以降は身近な家族や友人、恋人たちを長時間モデルとして見つめ続ける独自の制作スタイルを確立し、次第に厚塗りで量感の強い写実表現へと移行していきます。フランシス・ベーコンとは互いに肖像画を描き合うほどの深い親交があり、20世紀イギリス美術における具象絵画の中心人物として並び称されました。2008年、大柄な女性モデルを描いた「ベネフィッツ・スーパーバイザー、眠る」がオークションで3,360万ドルという当時存命の画家としては史上最高額で落札され、大きな話題となりました。2011年、88歳でロンドンにて没しています。

3つの代表作解説

  • ベネフィッツ・スーパーバイザー、眠る(個人蔵): 1995年制作。大柄な女性を執拗な観察眼で描いた作品。2008年にクリスティーズのオークションで3,360万ドルの高値がつき、存命画家の作品としては当時の世界最高額を記録しました。
  • 反射(自画像)(個人蔵): 1985年制作の自画像。老いを迎えた自身の肉体を一切の美化なく見つめる、フロイドらしい容赦のない視線が貫かれています。
  • 大きな室内、W11(ワトーによる)(個人蔵): 1981-83年制作。ロココの巨匠ワトーの作品を下敷きにしながら、現代の室内空間に置き換えた意欲作。フロイドの様式的な転換点とされる作品です。