ミレー《春(ダフニスとクロエ)》:2メートル超の装飾画に描かれた幼い恋

ミレー《春(ダフニスとクロエ)》:2メートル超の装飾画に描かれた幼い恋

名画
作者
ジャン=フランソワ・ミレー
制作年
1865年
所蔵
国立西洋美術館
所在地
東京都台東区

《種をまく人》で知られるミレーが1865年に描いた、高さ2メートルを超える装飾画。古代ギリシャの恋愛物語を主題に、幼い愛の芽生えを柔らかく描きます。国立西洋美術館の松方コレクションの一点です。

《種をまく人》や《晩鐘》で知られるジャン=フランソワ・ミレーが、1865年に描いた《春(ダフニスとクロエ)》。高さ2メートルを超える縦長の装飾画で、東京・上野の国立西洋美術館が所蔵する松方コレクションの一点です。農民や大地を描いた画家というミレーの一般的なイメージとは、ずいぶん印象の違う作品です。

《春(ダフニスとクロエ)》とは

正式な作品名は《春(ダフニスとクロエ)》(英題Spring (Daphnis and Chloe))、作者はジャン=フランソワ・ミレー、制作年は1865年です。技法は油彩・カンヴァスで、寸法は235.5×134.5センチ。国立西洋美術館の所蔵番号はP.1959-0146で、画面の右下に「J. F. Millet」の署名があります。

『ダフニスとクロエ』は、古代ギリシャの詩人ロンゴスが書いたとされる恋愛物語です。幼くして捨てられ、牧人に育てられたダフニスとクロエの成長と、愛の成就が語られます。ミレーは「春」というテーマに幼い愛の芽生えをとりあげ、柔らかい色調と筆遣いで、無垢な二人と牧歌的な光景を描きました。本作は装飾画「四季」のうちの1点です。

ミレーは1814年にノルマンディーのグリュシーで生まれ、1875年にバルビゾンで没した画家です。《種をまく人》や《落穂拾い》のように、農民の労働と大地を主題とした作品でよく知られています。そのミレーが古代ギリシャの物語を大画面に描いたのが本作です。国立西洋美術館は本作を、身近な自然や農民などを描いたミレーの作品のなかでも古典的な傾向が強い作品と位置づけています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:国立西洋美術館
  • 所在地:東京都台東区上野公園7-7(JR上野駅公園口からすぐ)
  • 展示状況:常設展(コレクション展)で展示中です
  • 観覧料:常設展(コレクション展)は一般500円、大学生250円、高校生以下と65歳以上は無料
  • 休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 縦長の大画面:235.5×134.5センチという堂々たる縦長のかたち自体が、壁を飾るために構想された装飾画であることを物語っています。実物の前に立つと、その大きさに驚きます。
  • ミレーの古典的な一面:身近な自然や農民などを描いたミレーの作品のなかでも、本作は古典的な傾向が強い作品です。古代ギリシャの物語を主題に選んだ画家の別の顔が見えてきます。
  • 柔らかい色調と筆遣い:輪郭を強く締めず、光をふくんだ淡い色を重ねる描き方が、無垢な二人のあどけなさと春の空気をそのまま画面に写しとっています。木立の向こうには海がのぞき、足もとには小さな野の花が咲いています。

この絵が日本にある理由

本作は「松方コレクション」の一点です。国立西洋美術館が公開する来歴によれば、この絵はまずシャルル=グザヴィエ・トマ(通称トマ・ド・コルマール)が所有し、パリの競売やニューヨークのデュラン=リュエル画廊、大コレクターのハヴマイヤーの手を経てきました。その後、松方幸次郎が購入します。そして1944年にフランス政府が接収し、1959年にフランス政府から寄贈返還されて同館の所蔵となりました。

松方幸次郎は川崎造船所の初代社長を務めた実業家で、第一次世界大戦期のロンドン滞在をきっかけに、1916年ごろから1920年代半ばにかけてヨーロッパへ足しげく通い、絵画や彫刻から家具、タペストリーまで膨大な美術品を買い集めました。その総数は1万点を超えたと言われます。

ところがパリに残された約400点は戦時中にフランス政府に接収され、戦後の1951年のサンフランシスコ平和条約によって正式にフランス国有となってしまいます。その後フランス政府は日仏友好のため、その大半を「松方コレクション」として日本へ寄贈返還することを決めました。返還された作品を受け入れる器として1959年に開館したのが、国立西洋美術館です。本館はル・コルビュジエの設計で、2016年には世界遺産にも登録されています。

まとめ

《春(ダフニスとクロエ)》は、農民画家というミレー像を静かに揺さぶってくれる一枚です。古代の恋愛物語を、装飾画にふさわしい大きさと柔らかさで描き出しています。同じ「ダフニスとクロエ」を主題とした作品は他館にもありますが、この縦長の《春》は上野の国立西洋美術館でしか見られません。出かける前に、公式サイトで展示状況を確かめておくと安心です。