アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム):ドラクロワに挑んだ31歳のルノワール

アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム):ドラクロワに挑んだ31歳のルノワール

名画
作者
ピエール=オーギュスト・ルノワール
制作年
1872年
所蔵
国立西洋美術館
所在地
東京都台東区

ルーヴルにあるドラクロワ《アルジェの女たち》を下敷きに、31歳のルノワールが1872年に描いた初期の代表作。モデルはパリの女性で、舞台もパリの室内です。松方コレクションとして日本へ渡り、国立西洋美術館の常設展で公開されています。

ピエール=オーギュスト・ルノワールの《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》は、国立西洋美術館が所蔵する縦156センチの大作です。異国風の衣装をまとった女性たちが横たわりますが、モデルはパリの女性で、舞台もパリの室内。31歳のルノワールが、憧れの先輩画家に真正面から挑んだ初期の代表作です。

《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》とは

1872年に描かれた油彩・カンヴァス作品で、寸法は縦156センチ、横128.8センチ。画面左下に署名と年記があります。国立西洋美術館の所蔵番号はP.1959-0182です。

下敷きになったのは、ルーヴル美術館にあるウジェーヌ・ドラクロワの《アルジェの女たち》(1834年)でした。登場人物の配置、場面の雰囲気、アラブ風の多彩な装飾といった要素を、ルノワールはこの先輩画家から受け継いでいます。ただし画面は縦に伸ばされ、人物の肌の柔らかな描写など、後年のルノワールらしさもすでに顔をのぞかせています。ルノワール自身はこのとき北アフリカを訪れたことがなく、ここに描かれた「ハーレム」はあくまで想像のなかの東方世界でした。

19世紀のパリでは、北アフリカや中東への憧れを主題にした絵画が広く好まれていました。ドラクロワはその代表格で、若い画家たちにとっては色彩の教科書のような存在です。ルノワールもこの潮流のなかにいて、実際に旅をする代わりに、衣装と小道具を集めてアトリエに東方の世界を組み立てました。国立西洋美術館は本作をルノワール初期の代表作のひとつと位置づけており、画家に関する展覧会や研究書でも繰り返し取り上げられています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
  • 所在地:JR上野駅公園口からすぐ。開館時間は9時30分から17時30分(金曜・土曜は20時まで)で、月曜休館です。
  • 展示状況・観覧料:常設展(コレクション展)で公開されており、同館の所蔵作品検索でも「展示中」と表示されています。常設展の観覧料は一般500円、大学生250円。高校生以下と18歳未満、65歳以上は無料で、毎月第2日曜などの無料観覧日もあります。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • ドラクロワ譲りの色彩:豊かな金髪、赤を主調とする絨毯、装飾品や衣裳に、ドラクロワ風の暖かい色彩がはっきりと表れています。ルーヴルにある《アルジェの女たち》を頭に置いて見ると、ルノワールが何を借り、どこを自分流に変えたのかがはっきり見えてきます。
  • 印象派の一歩手前:31歳のルノワールはドラクロワを熱心に学んでいました。この直後から彼は印象派へ傾き、色はさらに明るくなっていきます。転換点に立つ絵として見ると面白さが増します。
  • 実物の大きさ:縦156センチという寸法は、人物がほぼ等身大で迫ってくる大きさです。織物や装飾品の質感は、図版では味わいきれません。

この絵が日本にある理由

この作品は、実業家・松方幸次郎(1866-1950)が集めた「松方コレクション」の一点です。川崎造船所の社長だった松方は1916年ごろからヨーロッパで美術品を買い集め、本作は1921年12月31日に画商デュラン=リュエルから購入されました。

しかしコレクションの多くはヨーロッパに置かれたままで、第二次世界大戦中の1944年、フランス政府に敵国資産として接収されてしまいます。戦後の交渉の末、フランスは日本に西洋美術のための美術館を新設することを条件に、大半の作品を返還することに同意しました。こうして1959年、上野公園に国立西洋美術館が開館します。本作の所蔵番号P.1959-0182の「1959」は、まさにこの返還の年を示しています。

設計を担当したのはル・コルビュジエで、本館は2016年に世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品」の構成資産として登録されました。絵を見ながら建物そのものも味わえるのが、この美術館ならではの楽しみ方です。

まとめ

《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》は、まだ印象派になりきる前のルノワールが、ドラクロワという巨匠に正面からぶつかった記念碑的な一枚です。パリで描かれ、松方幸次郎に買われ、戦争を経て上野にたどり着きました。常設展で通年公開されていることが多く、特別展の混雑を避けて気軽に会いに行けるのも大きな魅力です。ルノワールというと明るい印象派の風景や少女像を思い浮かべる方が多いはずですが、その手前にこんな濃厚な絵があったことを知ると、画家の見え方が変わります。