『たゆたえども沈まず』:ゴッホと日本人画商、パリで交差した二つの人生

『たゆたえども沈まず』:ゴッホと日本人画商、パリで交差した二つの人生

原田マハが描く、フィンセント・ファン・ゴッホと日本人画商・林忠正の物語『たゆたえども沈まず』。19世紀末パリのジャポニスムの熱狂を背景に、ゴッホ兄弟の絆と日本美術の関わりを描く長編小説です。

はじめに:ゴッホの物語に「日本」という補助線を引く

『たゆたえども沈まず』は、原田マハによる長編アート小説です(2017年刊行)。主人公は、炎の画家フィンセント・ファン・ゴッホと、彼を支え続けた画商の弟テオ。そこに、実在した日本人画商・林忠正と、その助手である架空の青年・加納重吉が絡み、19世紀末のパリを舞台に物語が展開します。タイトルはパリ市の紋章に刻まれた標語「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」から取られています。

この本の3つの見どころ(読みどころ)

1. ジャポニスムの熱狂を生きた男・林忠正

林忠正は、19世紀末のパリで浮世絵をはじめとする日本美術を売り、ジャポニスムの流行を支えた実在の美術商です。西洋美術史の中で語られることの少なかったこの人物に光を当てたことが、本作の大きな魅力です。

2. 浮世絵に憧れたゴッホという視点

ゴッホが浮世絵を熱心に収集・模写し、「日本」に理想郷を夢見ていたことはよく知られています。本作はその憧れを物語の軸に据え、ゴッホの絵の中に流れ込んだ日本美術の影響を、小説という形で体感させてくれます。

3. 兄フィンセントと弟テオの痛切な絆

売れない兄を信じ、支え続けた画商の弟テオ。二人の手紙のやり取りに基づく史実を下敷きに、その愛情と苦悩が丁寧に描かれ、終盤は涙なしには読めません。

この本を読んだ後の、おすすめのアクション

ゴッホ作品の中の「日本」を探す: 「タンギー爺さん」の背景に描かれた浮世絵や、広重を模写した「雨の大橋」など、ゴッホと日本の接点を実際の作品でたどってみると、本作の余韻がさらに深まります。

まとめ

『たゆたえども沈まず』は、ゴッホの悲劇を「日本との出会い」という新鮮な角度から描き直した物語です。読み終えたあと、ゴッホのひまわりや星月夜が、少し違う輝きを帯びて見えることでしょう。