『楽園のカンヴァス』:アンリ・ルソーの幻の傑作をめぐる、7日間のアートミステリー
美術館学芸員がルソーの幻の作品をめぐる謎を解き明かす、原田マハのアートミステリー小説。山本周五郎賞受賞作で、アンリ・ルソーとピカソをめぐる知的興奮に満ちた物語。
はじめに:1枚の「幻の絵」をめぐる7日間
元・キュレーターという経歴を持つ作家、原田マハの代表作の一つが『楽園のカンヴァス』(原田マハ 著)です。倉敷の大原美術館で監視員として働く早川織絵が、かつてのアンリ・ルソー研究者としての目を見込まれ、スイスの大富豪コレクターに招かれて「幻の絵」と向き合う——そこから7日間の物語が始まります。
書誌と受賞歴
本書は2012年に新潮社から刊行された長編小説で、単行本は約290ページ。2014年に新潮文庫に収められ、文庫版は440ページほどになります。第25回山本周五郎賞を受賞した作品で、著者にとって代表作かつ出世作にあたります。中国語版・韓国語版・フランス語版なども出ており、国外でも読まれてきました。
著者について
原田マハは1962年東京生まれ。早稲田大学第二文学部で美術史を学び、森美術館設立準備室やニューヨーク近代美術館(MoMA)での勤務を経て、2002年にフリーのキュレーターとなりました。2005年に『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受け作家デビュー。本作で山本周五郎賞を受け、2017年には『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞を受賞しています。『暗幕のゲルニカ』『たゆたえども沈まず』など、実在の画家と作品を軸にしたアート小説を数多く書いてきた書き手です。
内容の骨格
1. 実在の傑作「夢」を中心に据えた謎解き
物語の中心にあるのは、ニューヨーク近代美術館が所蔵するアンリ・ルソーの実在の名作「夢」です。その絵にまつわる「もう1枚の絵」の真贋をめぐって、主人公たちは古い謎の書物を手がかりに推理を重ねていきます。真贋判定に与えられた期限は7日間、1日1章という制限が全編の緊張感を生みます。
2. 美術館の裏側を知り尽くした著者ならではのリアリティ
鑑定や真贋判定の現場、コレクターとキュレーターの緊張関係、作品の輸送や保険といった実務まで、美術業界の内幕が具体的に描かれます。ここは経験者にしか書けない部分です。
3. ルソーとピカソ、二人の接点
素朴派のルソーと、キュビスムのピカソ。一見つながりの薄い二人の画家が物語の中でどう結びつくのかという構造そのものが、美術史への興味をかき立てます。なお主人公の早川織絵をはじめ、物語を動かす人物の多くは架空で、実在の画家と作品のあいだに創作が織り込まれています。
どんな読者に向くか
美術史の予備知識はいりません。むしろ「ルソーもピカソも名前しか知らない」段階の人が、読みながら20世紀初頭のパリ画壇の見取り図を手に入れられる作りです。1日=1章の構成で先が気になる展開が続くため、完全に通読向き。ミステリーとして読めるので、アート系の本を最後まで読み通せたことがないという人の一冊目に向きます。逆に、ルソーの画業を史実に沿って知りたい人は、画集や研究書を別に当たってください。
関連して見に行けるもの
物語の舞台となる大原美術館(岡山県倉敷市)は実在の美術館で、日本初の西洋美術中心の私立美術館として1930年に開館しました。読後に訪ねると、主人公が立っていた展示室の空気を実感できます。ルソーが属した素朴派については、東京の世田谷美術館が素朴派・アウトサイダーアートの作品を収集してきたことで知られています。ピカソ作品なら、箱根の彫刻の森美術館「ピカソ館」やポーラ美術館が候補になります。
まとめ
『楽園のカンヴァス』は、美術史の知識とミステリーの興奮を同時に味わえる稀有な小説です。アート初心者でも一気に読み進められる、物語としての完成度の高さが最大の魅力です。
Kindle版:楽園のカンヴァス(新潮文庫)
※当サイトはAmazonアソシエイト・プログラムの参加者であり、適格販売により収入を得ています。

