『カラー版 名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで』:日本の美術入門の古典、待望の近代編
マネ、モネ、セザンヌからピカソ、モンドリアンまで。一枚の絵をじっくり読み解く名解説で世代を超えて読み継がれる、高階秀爾による美術入門の古典の近代美術編です。
『カラー版 名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで』(高階秀爾 著)は、半世紀以上読み継がれてきた美術入門の古典を、図版をすべてカラーに改めて出し直した新版です。岩波新書から2023年6月に刊行され、254ページに14人の画家の代表作14点を収めます。旧版の『名画を見る眼』『続 名画を見る眼』は1969年の刊行以来、累計82万部を数えるロングセラーです。
書誌:半世紀を経たカラー化
もとの『名画を見る眼』は1969年、続編にあたる本書の旧版は1971年に、いずれも岩波新書として世に出ました。以来ずっと版を重ねてきましたが、図版はモノクロのままでした。色彩そのものが主題である印象派以降を、白黒の図版で語るという無理が半世紀続いたわけです。2023年のカラー版は、その積年の課題を解いた版と言えます。本文の骨格は旧版を受け継いでいます。
著者について
高階秀爾氏は日本の西洋美術史学の第一人者です。東京大学教授を務めたのち、1992年から2000年まで国立西洋美術館長、その後は大原美術館長を歴任し、2012年に文化勲章を受章しました。2024年10月に92歳で亡くなっています。美術出版社の『カラー版 西洋美術史』の監修者でもあり、専門用語を最小限に抑えた端正な日本語は、美術入門書のお手本と言われ続けてきました。
取り上げられる14点
モネ《パラソルをさす女》に始まり、ルノワール、セザンヌ、ヴァン・ゴッホ、ゴーギャン、スーラ、ロートレック、ルソー、ムンク、マティス、ピカソ、シャガール、カンディンスキー、そして最終章のモンドリアン《ブロードウェイ・ブギウギ》へ。一章につき一作品をじっくり読み解くスタイルで、近代絵画がなぜ、どのように「わかりにくく」なっていったのかを解き明かします。
この本の3つの見どころ(読みどころ)
1. 「一枚を深く」という王道の入門法
広く浅い美術史ではなく、傑作一枚を隅々まで見る。この方法だからこそ、鑑賞の技術が身体に染み込みます。カラー図版で筆触や色の重なりを確かめながら読める新版は、その意味でようやく本領を発揮した一冊です。
2. 近代絵画の「なぜ」に答えてくれる
なぜ印象派は輪郭線を捨てたのか。なぜセザンヌの描く人物は静物のように見えるのか。なぜピカソ《アヴィニョンの娘たち》の顔はバラバラなのか。「上手い絵」から「新しい視覚」への転換が、作品ごとに論理立てて理解できます。最後がモンドリアンの抽象で締めくくられる構成のため、読み終えると「絵から対象が消えていくまでの数十年」が一本の線としてつながります。
3. 格調高く、しかし平易な文章
専門用語に頼らず、目の前の画面で起きていることを言葉にしていく。その手つきは、鑑賞者が自分で考えるための型としてそのまま使えます。
どんな読者に向くか
予備知識はいりません。年号も様式名も知らないまま第一章から読めます。完全に通読向きの本で、辞書として引く使い方には向きません。一章が一作品で完結するため、一日一章という読み方もできます。向いているのは、印象派やピカソの展覧会に行く予定がある人、そして「近代絵画はどこから難しくなったのか」を一度筋道立てて理解したい人。逆に、多数の画家を広く浅く知りたい人には作品数の少なさが物足りないでしょう。その用途には通史の教科書のほうが適します。
関連して見に行けるもの
本書で扱う画家の作品は、日本国内でも実物に会えます。国立西洋美術館(東京・上野)はモネやルノワールを含む松方コレクションを持ち、著者が館長を務めた館でもあります。ポーラ美術館(神奈川・箱根)は印象派から20世紀絵画までを厚く所蔵し、大原美術館(岡山・倉敷)にも近代絵画の名品が並びます。ひろしま美術館(広島)も同時代の作品を体系的に見られる館です。
まとめ
近代絵画への苦手意識を解いてくれる最良の入門書です。ファン・アイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》からマネ《オランピア》までを扱うⅠと続けて読めば、油彩画の誕生からモンドリアンまでの流れが「見る力」とともに身につきます。Ⅰの最終章のマネと、Ⅱの第一章のモネが手をつなぐ構成になっているのも心憎いところです。
Kindle版:カラー版 名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで(岩波新書)
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