『鑑賞のための西洋美術史入門』:展覧会の前に読む、様式がわかる定番ハンドブック

『鑑賞のための西洋美術史入門』:展覧会の前に読む、様式がわかる定番ハンドブック

ゴシック、ルネサンス、バロック、ロココ……様式の違いが図解でスッと頭に入る、美術館ファン御用達のビジュアル入門書。展覧会の予習に一冊あると心強い定番書です。

『鑑賞のための西洋美術史入門』(早坂優子 著)は、西洋美術の様式の流れを、豊富な図版とイラスト図解で解説する定番の入門書です。ゴシックとロマネスクはどう違うのか。バロックとロココの見分け方は。言葉では説明しにくい「様式」の違いが、比較図解で直感的にわかるのが最大の特長です。扱う範囲はギリシャ美術から現代美術まで。西洋美術史の全体像を、一冊で見渡すことができます。

書誌

2006年に視覚デザイン研究所から刊行されました。A5判・221ページ。刊行から二十年近くたったいまも書店の美術書棚に置かれ続けているロングセラーです。版元の視覚デザイン研究所は、デザインや美術の入門書を長く手がけてきた出版社で、図解と親しみやすいイラストを軸にした美術史の入門シリーズを揃えています。本書はそのシリーズの中でも、西洋美術の通史を扱う中心的な一冊にあたります。

この本の3つの見どころ(読みどころ)

1. 比較でわかる様式の見分け方

同じ聖母子でも、ビザンティン、ゴシック、ルネサンス、バロックでは顔つきも構図もまるで違います。並べて見せてくれるから、次に美術館で出会ったとき「これは○○様式」と当てられるようになります。文章で「量感がある」「動勢が強い」と読むより、二枚を並べて見るほうが圧倒的に速い。図解書ならではの強みが存分に活きています。

2. 歴史背景とセットで頭に入る

様式の変化の裏には、キリスト教の浸透、宗教改革、市民社会の成立といった歴史の大きな変化があります。本書は美術と世界史を結びつけて整理してくれるので、丸暗記ではなく理解として定着します。難しい美術用語も噛み砕かれており、初めて出会う言葉でつまずくことがありません。

3. ハンドブックとしての使いやすさ

時代ごとの章立てと索引が整理されており、展覧会の前にその時代の章だけ拾い読みする、という使い方が抜群に便利です。掲載作品には制作年や所蔵先といったデータも添えられているので、「この絵はどこに行けば見られるのか」がその場でわかります。持ち歩ける判型であることも含め、美術館ファンの常備薬のような一冊です。

どんな読者に向くか

予備知識はいりません。文章より図版とイラストが主役なので、活字の詰まった美術史書で挫折した人にこそ向きます。通読も可能ですが、本領は辞書的に引く使い方にあります。「今週末に行く展覧会はバロックだから、その章だけ読む」という付き合い方で、何年も手元に置ける本です。逆に、研究史や解釈の対立といった踏み込んだ議論を求める人には物足りません。その段階に進むための土台をつくる本、と位置づけるのが正確です。

この本ならではの点

同じ「西洋美術史入門」を名乗る本は数多くありますが、多くは文章を主、図版を従として構成されています。本書は逆で、図版の並べ方そのものが説明になっている点が他と決定的に違います。様式という、言葉にすると途端に抽象的になる概念を、視覚で先に理解させてから言葉を与える。この順番が、初学者のつまずきを一つ減らしてくれます。

関連して見に行けるもの

次に行く展覧会の時代の章を、行きの電車で読んでみてください。会場での理解度が驚くほど変わります。国立西洋美術館(東京・上野)の常設展は中世末から20世紀までを通しで見られるため、本書の章立てをそのまま順路として歩く楽しみ方もできます。大原美術館(岡山・倉敷)やひろしま美術館(広島)のように、西洋絵画を時代の幅をもって所蔵する館でも同じ使い方が可能です。

まとめ

西洋美術の全体地図を手に入れるための実用的な一冊です。専門書に進む前の土台としても、旅先で美術館に立ち寄るときの携帯資料としても働いてくれます。

Kindle版:鑑賞のための西洋美術史入門