ジョルジュ・スーラ:科学的な色彩と無数の点、キャンバスにドットの小宇宙を築いた点描の始祖

ジョルジュ・スーラ:科学的な色彩と無数の点、キャンバスにドットの小宇宙を築いた点描の始祖

画家

「グランド・ジャット島の日曜日の午後」で知られるスーラ。絵の具をパレットで混ぜず、科学的な光学理論に基づき、キャンバスに無数の原色の点を打ち込むことで光の明るさを極限まで保った一生の物語。

ジョルジュ・スーラ(1859-1891)は、新印象派と呼ばれるグループを生んだフランスの画家です。印象派が感覚的に光を捉えようとしたのに対し、スーラは色彩学や光学の理論を熱心に学び、論理的に光を組み立てようとしました。絵具を混ぜると画面が濁るのを避けるため、純粋な色を細かな点として並べ、見る人の目の中で混ざり合わせる。この方法で、それまでにない明るさと透明感を持つ画面をつくり出したのです。

生涯:31年の短い実験

1859年、パリの裕福な家庭に生まれました。国立美術学校(エコール・デ・ボザール)でアングルの弟子アンリ・レーマンに学び、厳格な古典的デッサンを徹底的に身につけています。この訓練が、後年の作品の堅牢な構図の土台になりました。

同時にスーラは科学の本を読み込みます。化学者シュヴルールの色彩の同時対比の法則、物理学者ルードの色彩論、美学者シャルル・アンリの線と感情の理論。これらを絵画に翻訳することが、彼の生涯の課題でした。

1884年、大作《アニエールの水浴》がサロンに落選すると、仲間とアンデパンダン協会を立ち上げ、そこでポール・シニャックと出会います。二人は分割描法を共に鍛え、1886年の第8回印象派展(最後の印象派展)に《グランド・ジャット島の日曜日の午後》を出品しました。物静かで秘密主義的な性格で、内縁の妻と子の存在すら友人たちに知らせていませんでした。1891年3月、感染症により31歳で急逝します。画業はわずか十年ほどでした。

画風の特徴

点描という技法ばかりが有名ですが、スーラを他と分けているのはむしろ構図の厳密さです。人物はエジプトの浮彫のように横向きで静止し、垂直と水平がきっちり支え合う。時間が止まったような静けさは、点描の粒々よりも、この幾何学的な骨格から生まれています。額縁の内側に補色の点を打って絵と壁を切り離す試みも彼の発明でした。晩年は、上向きの線は陽気さを、下向きの線は悲しみを喚起するというアンリの理論を、画面構成に直接応用しています。

代表作

  • アニエールの水浴(1884年、ナショナル・ギャラリー、ロンドン):セーヌ川のほとりで涼む労働者たち。最初の大作で、まだ点描以前の刷毛目が主体です。
  • グランド・ジャット島の日曜日の午後(1884-86年、シカゴ美術館):約2×3メートルの大画面。膨大な習作を重ね、二年をかけて仕上げた新印象派の記念碑です。
  • ポーズする女たち(1886-88年、バーンズ・コレクション、フィラデルフィア):アトリエで三つの姿勢をとる裸婦。背景に《グランド・ジャット島》そのものが描き込まれています。
  • シャユ踊り(1889-90年、クレラー=ミュラー美術館、オランダ):キャバレーの踊りを、上向きの線で陽気さとして構成した作品です。
  • サーカス(1890-91年、オルセー美術館):躍動する曲芸師と静止した観客の対比。未完のまま残された遺作です。

同時代の画家との関係

最大の同志はポール・シニャックで、スーラの死後、彼が新印象派の理論を著述にまとめて後世に伝えました。印象派の長老カミーユ・ピサロはスーラの方法に感銘を受けて一時期分割描法に転じ、そのために古い仲間と摩擦を起こしています。第8回印象派展にスーラを迎えることに、モネやルノワールは反発して出品を見送りました。パリに来ていたゴッホもスーラの点描を吸収し、自身の筆触に取り入れています。

日本で見られるか

スーラの大作はすべて欧米にあり、国内に主要作品は多くありません。ただし小品なら見る機会があります。ひろしま美術館は板に描かれた油彩《村はずれ》(1883年、15.6×24.9センチ)を所蔵し、箱根のポーラ美術館もスーラ作品を持っています。いずれも小さな画面ですが、点描以前から晩年に至る筆の運びを間近で確かめられる貴重な一点です。

見どころ

スーラの絵は、距離を変えて二度見るのが正解です。まず鼻先まで近づいて、赤と緑、青とオレンジといった補色の点が隣り合っているのを確認します。次に大きく下がると、その点が溶け合い、画面全体が淡く発光しはじめます。もう一つ、額の縁に近い部分にも注目してください。スーラは絵の周囲にも点を打ち、絵が壁から浮き上がって見えるよう計算していました。

代表作ギャラリー

グランド・ジャット島の日曜日の午後
グランド・ジャット島の日曜日の午後1886年シカゴ美術館
アニエールの水浴
アニエールの水浴1884年ロンドン・ナショナル・ギャラリー
サーカス
サーカス1891年オルセー美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)