ポール・シニャック:スーラの遺志を継ぎ、モザイクのように色彩を輝かせた新印象派のセーラー

ポール・シニャック:スーラの遺志を継ぎ、モザイクのように色彩を輝かせた新印象派のセーラー

画家

スーラと共に点描(分割主義)を確立したシニャック。スーラの急逝後、新印象派のリーダーとして、より大きく大胆なドットで「輝くモザイク画」のような独自の点描画を確立し、ヨットで旅を続けた自由な一生の物語。

ポール・シニャック(1863-1935)は、フランスの画家です。ジョルジュ・スーラとともに点描(分割主義)による新印象派を確立し、スーラの早世後は、その理論と運動の中心を担い続けました。スーラの点描が細かい粒子を敷き詰めるものだったのに対し、シニャックの点はより大きく、四角いタッチとなり、モザイクやステンドグラスのように色が響き合う画面へ向かいます。

生涯:ヨットで海を巡り、若い画家を支えた人

1863年11月11日、パリの裕福な商家に生まれました。正規の美術教育は受けず、モネらの作品を手本に独学で描き始めます。1884年、第1回アンデパンダン展でスーラと出会い、互いの考えが一致して以後の協働が始まりました。この展覧会を主催した「アンデパンダン協会(無審査・無賞の独立美術家協会)」にはシニャックも創立から関わり、後年1908年から1934年まで長く会長を務めています。

シニャックは生涯を通じて船と海を愛し、多くのヨットを所有しました。1892年、ヨット「オランピア号」で地中海を巡航した際、当時まだ小さな漁港だった南仏サン=トロペを見つけ、家を買います。以後10年ほど、パリとサン=トロペを往復しながら制作しました。フランス各地の港、オランダ、イタリア、コンスタンティノープルへも旅し、訪れた港の水彩を大量に残しています。1935年8月15日、パリで死去しました。

画風の特徴

スーラの死後、シニャックの筆触は次第に大きく、粗く、四角くなっていきます。混ぜずに並べた補色が、離れて見ると互いを強め合う——この分割主義の原理は保ちつつ、科学的な厳密さより色そのものの快さを優先する方向へ進みました。油彩では、下地の白を点と点のあいだに残し、画面全体を明るく保ちます。一方、旅先で描いた水彩は速筆で、透明感のあるにじみが持ち味です。1899年に著した『ウジェーヌ・ドラクロワから新印象主義まで』は、ドラクロワから印象派、そして分割主義へと至る色彩の系譜を論じた書物で、次世代の画家に広く読まれました。

代表作

  • サン=トロペの港(1901年、国立西洋美術館):131×161.5センチの大作。この時期のもっとも記念碑的な作品で、新印象派からフォーヴィスムへ向かう転換点を示すとされます。
  • フェリックス・フェネオンの肖像(作品第217番)(1890年、ニューヨーク近代美術館):「新印象派」の名付け親である批評家を、渦を巻く装飾的な背景の前に描いた異色の肖像です。
  • サン=トロペ、赤い浮標(1895年、オルセー美術館):水面に映る建物の色と、画面中央の赤い浮標の対比が鮮烈な一点です。
  • アヴィニョンの教皇庁(1900年、オルセー美術館):ローヌ川越しに見た教皇庁を、大きな筆触で構成しています。
  • 国立西洋美術館蔵《グロワ》(D.1959-0073)は20世紀初頭の素描(鉛筆、水彩、グアッシュ、紙)、20.0×27.0cm。松方コレクション由来。油彩の代表作ではなく、光に弱い紙作品のため公開機会は限られる。
  • 同時代の画家との関係

    ジョルジュ・スーラは同志であり、分割主義の共同開発者でした。1891年にスーラが31歳で急死すると、シニャックが理論の継承者となります。アンリ=エドモン・クロスとはサン=トロペ近郊で近しく交わり、南仏の光を分割主義で描く仲間でした。カミーユ・ピサロは一時期分割主義に転じた年長の画家で、シニャックと交流しています。もっとも大きな波及は1904年の夏、アンリ・マティスがサン=トロペでシニャックとともに制作したことでした。ここで生まれたマティスの《豪奢、静寂、逸楽》をシニャックは買い取っています。この体験がフォーヴィスム誕生の下地となりました。若き日のフィンセント・ファン・ゴッホとも、パリ時代とアルル訪問で接点を持っています。

    日本で見られるか

    日本にも作品があります。国立西洋美術館が《サン=トロペの港》(1901年)と《グロワ》のほか、同じ主題のリトグラフも所蔵しています。ひろしま美術館、ポーラ美術館にも作品があり、いずれも常設展示とは限らないため事前確認をおすすめします。

    見どころ

    シニャックの絵は、距離を変えて見るのが基本です。まず数メートル離れて、海と空と建物がどんな色に見えるかを覚えてください。次に近づくと、その色がどこにも塗られていないことが分かります。青と見えた海には橙が混じり、影には緑や紫が置かれています。もうひとつ見てほしいのが、点と点のあいだの隙間です。ここに下地の白が残されており、画面全体を発光させる仕掛けになっています。晩年に近いほどタッチは大きくなるので、制作年と筆触の大きさを見比べるのも面白い見方です。

代表作ギャラリー

サン=トロペの港
サン=トロペの港1901年頃国立西洋美術館
赤い浮標
赤い浮標1895年オルセー美術館
フェリックス・フェネオンの肖像
フェリックス・フェネオンの肖像1890年ニューヨーク近代美術館
Capo di Noli, near Genoa
Capo di Noli, near Genoa1898年ヴァルラフ・リヒャルツ美術館
Port de Marseilles
Port de Marseilles1907年エルミタージュ美術館
七色に彩られた尺度と角度、色調と色相のリズミカルな背景のフェリックス・フェネオンの肖像
七色に彩られた尺度と角度、色調と色相のリズミカルな背景のフェリックス・フェネオンの肖像1890年ニューヨーク近代美術館
Venice, Grand Canal
Venice, Grand Canal1905年トレド美術館
Au temps d'harmonie
Au temps d'harmonie1895年Montreuil town hall

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)