会田誠:日本画の技法で描く、笑えて痛い現代
セーラー服の少女の髪の分け目が、そのまま田んぼのあぜ道になる。会田誠は、日本画や戦争画の様式を借りて、美少女、戦争、サラリーマン、社会への皮肉を描く現代美術家です。森美術館での大規模個展で議論を呼んだ作家の、作品と経歴を事実にもとづいて紹介します。
会田誠(1965-)は、絵画を中心に、映像、彫刻、パフォーマンス、インスタレーションまで手がける現代美術家です。日本画の伝統的な技法や戦争画の様式を借りながら、美少女、戦争、サラリーマンといった主題を、ユーモアと毒を込めて描きます。作品はしばしば議論を呼びますが、日本の現代美術を代表する作家の一人として、国内外の美術館に収蔵されています。
経歴
1965年、新潟県新潟市に生まれました。東京藝術大学で油画を学び、1989年に卒業。1991年に同大学院美術研究科(油画技法・材料研究室)を修了しています。
大学院修了と同じ1991年に描いた《あぜ道》が、初期の代表作です。1990年代にはミヅマアートギャラリーで発表を重ね、1996年には戦争画の様式で描いた《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》を発表。2000年代に入ると、2002年のサンパウロ・ビエンナーレ、2003年のニューヨーク・ホイットニー美術館「The American Effect」、2004年の森美術館「六本木クロッシング」など国内外の展覧会に参加し、知名度を高めました。現在は神奈川県を拠点に制作しています。
作風と手法
会田の作品の特徴は、「伝統的な技法と、現代の主題の落差」です。《あぜ道》は岩絵具と和紙で描かれ、戦後日本画を代表する東山魁夷の《道》を下敷きにしています。ところがそこに描かれているのは、セーラー服の少女の後頭部。髪の分け目が、まっすぐな田んぼの道につながっています。
戦争画、屏風、浮世絵といった日本美術の様式を借りて、現代日本の風景や欲望、政治を描く。作家自身は、ショッキングな表現を「皮肉や批評のための手法」だと説明しています。絵画のほかに、段ボールで作った巨大な構造物、書、映像、パフォーマンスなど手段はさまざまですが、一貫しているのは「日本」という場所そのものを題材にする姿勢です。
主な作品
- 《あぜ道》(1991年):岩絵具、アクリル、和紙。少女の髪の分け目とあぜ道が一本の線でつながる、初期の代表作。豊田市美術館蔵。
- 《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》(1996年):ゼロ戦の編隊がニューヨークの上空を旋回する光景を、屏風の形式で描いた作品です。
- 《滝の絵》(2007-2010年):高さ4.4メートルの大画面に、滝で水遊びをする多数の少女を描いた作品。国立国際美術館蔵。
- 《灰色の山》(2009-2011年):無数のスーツ姿のサラリーマンが積み重なって山をなす大作です。
- 《MONUMENT FOR NOTHING II》(2008年-):段ボールで組み上げられた巨大な構築物。「何のためでもない記念碑」という題名のとおり、意味のない巨大さそのものを見せます。
国際的な評価
2012年11月から2013年3月にかけて、森美術館で美術館初の大規模個展「会田誠展:天才でごめんなさい」が開かれ、新作を含む約100点が展示されました。この展覧会では一部の作品が18歳未満入室禁止の部屋に展示され、市民団体から撤去を求める抗議もありました。美術館と作家は2013年2月に声明を出し、展示は会期末まで続けられました。
2015年には東京都現代美術館の企画展に出品した「会田家」名義の作品《檄》について、館から撤去や改変の要請があり、その後撤回されるという出来事もありました。作品は国内では東京国立近代美術館、東京都現代美術館、国立国際美術館、広島市現代美術館、大原美術館など、海外ではニューヨークのアジア・ソサエティなどに収蔵されています。
日本で見られる場所
会田誠の作品を常設で見られる場所はなく、企画展やコレクション展の機会に限られます。
ただし、作品を所蔵する美術館は多く、コレクション展に登場することがあります。初期の代表作《あぜ道》は豊田市美術館(愛知県)が所蔵しています。大作《滝の絵》は国立国際美術館(大阪市)のコレクションです。このほか、東京国立近代美術館、東京都現代美術館、森美術館、大原美術館(倉敷市)、広島市現代美術館も作品を所蔵しています。
各館のコレクション展は展示替えが多いので、見たい作品がある場合は、訪問前に美術館の公式サイトで「現在展示中の作品」を確認してください。作品の多くは個人のコレクションにもあり、企画展のときにまとめて見られることがあります。
見どころ
会田の絵は、まず「うまい」ことに驚いてください。《あぜ道》の岩絵具の質感も、《滝の絵》の少女たちの一人ひとりの動きも、技術の裏づけがあります。そのうえで、描かれているものと、描き方のギャップに目を向けましょう。日本画のように美しい画面に、なぜこの主題なのか。その違和感を、笑うか、怒るか、考え込むか。どの反応も正解です。反応そのものを引き出すことが、この作家の仕事だからです。