クラーナハ《ホロフェルネスの首を持つユディト》:37センチの板に宿る「女のちから」
- 作者
- ルカス・クラーナハ(父)
- 制作年
- 1530年頃
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
ドイツ・ルネサンスの巨匠クラーナハが1530年頃に描いた板絵。敵将の首を手に、身じろぎもせずこちらを見つめる女性を描きます。国立西洋美術館が2018年に購入した新しい収蔵品で、常設展で見られます。
断末魔のうめきを残した男の首を手に、身じろぎもせず醒めた視線をこちらに向ける女性。ドイツ・ルネサンスを代表する画家ルカス・クラーナハ(父)が1530年頃に描いたこの板絵は、東京・上野の国立西洋美術館が2018年に購入した収蔵品です。縦37センチほどの小品ながら、一度見たら忘れられない強さを持っています。
《ホロフェルネスの首を持つユディト》とは
正式な作品名は《ホロフェルネスの首を持つユディト》(英題Judith with the Head of Holofernes)、作者はルカス・クラーナハ(父)、制作年は1530年頃です。技法は油彩・板で、寸法は37.2×25センチ。国立西洋美術館の所蔵番号はP.2018-0001で、画面の右下にはクラーナハ工房の目印である有翼の蛇の紋章による署名が入っています。
ユディトは旧約聖書外典に登場する女性です。おのれの美貌と酒によって敵将ホロフェルネスを酔わせて斬首し、故郷ベトリアを救いました。クラーナハにとってユディトは、自身の芸術の中核的な主題のひとつでした。その勇ましくも蠱惑的な「女のちから」が、最盛期のクラーナハに特有のデリケートな描写をつうじて浮かびあがります。
クラーナハは1472年にドイツのクローナハで生まれ、1553年にワイマールで没しました。ヴィッテンベルクの宮廷画家として名を馳せ、大型の工房を運営して絵画の大量生産を行うなど、先駆的なビジネス感覚を備えた人物でもあります。マルティン・ルターにはじまる宗教改革にも、きわめて深く関与しました。そしてこの画家の名を何よりも忘れがたいものにしているのが、ユディトやサロメ、ヴィーナスやルクレティアといった物語上のヒロインたちを、特異というほかないエロティシズムで描きだしたイメージの数々です。
どこで見られる?
- 所蔵先:国立西洋美術館
- 所在地:東京都台東区上野公園7-7(JR上野駅公園口からすぐ)
- 展示状況:常設展(コレクション展)で展示中です
- 観覧料:常設展(コレクション展)は一般500円、大学生250円、高校生以下と65歳以上は無料
- 休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- こちらを見る醒めた視線:右手に大剣を立て、左手を斬り落とした首に添えながら、ユディトは悲劇の余韻にも英雄的な高揚にも浸らず、身じろぎもせず静かに鑑賞者を見返します。この視線こそが本作の核心です。
- 最盛期のデリケートな描写:つばの広い帽子、巻き毛、幾重にも巻いた首飾り、切れ込みの入った衣装。細部の描き分けに、最盛期のクラーナハならではの繊細さが表れています。
- 有翼の蛇のサイン:右下の小さな紋章はクラーナハ工房のトレードマークです。国立西洋美術館は本作を、小ぶりながら保存状態にも恵まれた貴重な板絵と評価しています。
この絵が日本にある理由
この作品は、松方コレクション由来ではありません。国立西洋美術館が公開する来歴によれば、本作はもともとドイツの貴族の家に伝わったもので、ヴァルデック=ピルモント侯ゲオルク1世が所有し、その娘イーダ・カロリーネがシャウムブルク=リッペ侯家へ嫁いだ際に贈られたと見られています。以後この家系に代々受け継がれました。
1929年にフランクフルトの画商ローゼンバウムがこれを取得し、ニューヨークのヴィルフリート・グライフ博士、チューリヒのギャラリー・ナータン、そしてドイツの個人蔵を経て、2018年8月3日に国立西洋美術館が購入しました。同館の収蔵品はフランス近代美術中心の松方コレクションが出発点ですが、開館後も購入や寄贈によって収蔵品を広げており、本作はその新しい成果のひとつです。
国立西洋美術館は2016年から2017年にかけて「クラーナハ展―500年後の誘惑」を開催しており、この画家との縁は以前からありました。同館は本作のほかにも、油彩の《ゲッセマネの祈り》や版画・素描の作品を所蔵しています。なお同館は1959年、フランスから寄贈返還された松方コレクションを受け入れる器として開館した美術館で、ル・コルビュジエ設計の本館は2016年に世界遺産にも登録されました。
まとめ
《ホロフェルネスの首を持つユディト》は、聖書の英雄譚を、恐ろしさと美しさが同居する一枚の肖像へと変えた作品です。松方コレクションを核とする国立西洋美術館が、2018年に新たに迎え入れた比較的新しい収蔵品でもあります。上野公園で、常設展の観覧料だけで対面できます。訪問前に公式サイトで展示状況を確認してください。


