グラスのある静物:キルヒナーが円と直線で組み立てたベルリンの静物画

画像:愛知県美術館蔵

グラスのある静物:キルヒナーが円と直線で組み立てたベルリンの静物画

名画
作者
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー
制作年
1912年
所蔵
愛知県美術館
所在地
愛知県名古屋市

エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーが1912年に描いた《グラスのある静物》は、名古屋の愛知県美術館が所蔵する油彩画です。ドイツ表現主義の中心にいた画家の代表的な時期の一点で、コレクション展の会期ごとに公開されます。

エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの《グラスのある静物》は、1912年に描かれた油彩画です。所蔵は名古屋市の愛知県美術館。ドイツ表現主義を代表する画家が、机の上のわずかなものだけで大きな画面を組み立てた一点です。

《グラスのある静物》とは

愛知県美術館のコレクション検索によると、制作年は1912年、技法は油彩・画布、寸法は100.0×74.0センチ、資料番号はFO199100004000です。まず、1メートル近い縦長という寸法に驚かされます。静物画としてはかなり大きく、机の上の小さなものたちが人の背丈に近いスケールで立ち上がっています。

同館の解説によれば、本作はキルヒナーのベルリンのアトリエで制作され、円と直線を基本的な構成要素としています。とりわけ円が画面全体を支配しており、この方法は1910年ごろ、ジョン・グリフィスの著作を通じてインドのアジャンター石窟壁画を研究したことから導かれたものとされています。異国の古い壁画から学んだ造形の原理が、20世紀ベルリンの静物画に応用されているわけです。

描かれたものの取り合わせも独特です。果物を載せる皿はキルヒナー自身が原始彫刻をまねて彫ったもので、いっぽうガラス器とランプは同時代の工業製品。背景の綴織にはアフリカやオセアニアの美術に由来する人物が織り込まれ、その手前にはアダムとイヴの物語を思わせるリンゴが置かれています。原始と近代、そして聖書の物語が、一つの机のうえで同居しているのです。

どこで見られる?

  • 所蔵先:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
  • 所在地:愛知県名古屋市東区東桜一丁目13番2号。地下鉄栄駅から徒歩5分ほどです。
  • 展示状況・観覧料:常設展示ではありません。同館のコレクション展は年に数期に分けて開かれ、会期ごとに出品作品が入れ替わります。この作品が展示されるかどうかも会期次第です。コレクション展の観覧料は一般500円、大学生300円、高校生以下は無料(20名以上の団体は一般400円、大学生240円)です。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 円で組み立てられた画面:皿、グラス、ランプ。丸いものが呼応しながら画面をつないでいきます。何が置いてあるかより、どんな形で構成されているかを追うと面白い絵です。
  • 手彫りの皿と工業製品のガラス:自分で彫った素朴な果物皿と、工場でつくられたガラス器が同じ机に並びます。原始への憧れと都市の生活が同時に存在していた、当時のベルリンの空気そのものです。
  • 「退廃芸術」展を生き延びた絵:同館の解説によれば、本作は1937年にナチス政権下で開かれた「退廃芸術」展に出品されました。表現主義が公然と否定された時代の証人でもあります。

この絵が日本にある理由

キルヒナーは1905年にドレスデンで結成された芸術家集団「ブリュッケ」の中心メンバーで、20世紀初頭のドイツ美術を語るうえで欠かせない存在です。1912年という制作年は、彼がベルリンに移って都市を主題に描きはじめた時期にあたり、画業のうえでも重要な年にあたります。

愛知県美術館は、1955年に開館した愛知県文化会館美術館を前身とし、1992年に愛知芸術文化センター内であらためて開館しました。1987年に定めた収集方針では、20世紀の美術の展開とその特質に触れられる作品を柱に据えています。グスタフ・クリムトやパブロ・ピカソ、マックス・エルンストらと並べたとき、ドイツ表現主義のキルヒナーが欠かせないのは明らかでしょう。資料番号のFO199100004000は、2012年度収蔵のゴーギャンがFO2012で始まるのと同じ形式で、1990年代初めの収蔵と考えられます。開館前後の時期に、方針にそって着実に集められた一点なのです。

まとめ

《グラスのある静物》は、名古屋の愛知県美術館で見られるキルヒナーの油彩画です。常設展示ではなく、コレクション展の会期に合わせて登場します。円という形の原理と、原始と近代がぶつかる机のうえ。1メートル近い画面の前に立つと、静物画という言葉の静けさが裏切られるはずです。訪ねる前に、公式サイトで会期と出品作品を確かめておきましょう。