雪中の狩人:ヨーロッパ絵画が初めて冬の寒さを主役にした一枚
- 作者
- ピーテル・ブリューゲル(父)
- 制作年
- 1565年
- 所蔵
- ウィーン美術史美術館
- 所在地
- オーストリア・ウィーン
ピーテル・ブリューゲル(父)が1565年に描いた月暦画連作の一点。獲物の乏しい狩人と痩せた犬、凍った池で遊ぶ小さな人々が、冷たい灰緑色の空気のなかに配置されます。ウィーン美術史美術館の絵画館第X室で、他のブリューゲル作品と並べて鑑賞できます。
《雪中の狩人》は、ピーテル・ブリューゲル(父)が1565年に描いた板絵で、雪深い村へ戻る猟師たちの姿をとらえた作品です。手前の丘から見下ろすような視点で、凍った池、たき火、遠くの山並みまでが一枚の画面に収められ、ヨーロッパ絵画で本格的に冬そのものを主題にした最初の作品と評されます。ウィーン美術史美術館の絵画館が所蔵しています。
雪中の狩人とは
原題はドイツ語でDie Jäger im Schnee、副題に「冬」と添えられます。オーク材の板に油彩で描かれ、寸法は縦116.5センチ、横162センチ。ウィーン美術史美術館の絵画館における所蔵番号は1838です。この絵は単独の作品ではなく、一年の移り変わりを描いた月暦画の連作の一点として制作されました。連作は6点が描かれたと考えられており、そのうち5点が現存し、《雪中の狩人》はもっとも寒い季節を受け持っています。注文主はアントウェルペンの豪商ニコラース・ヨンゲリンクで、彼の邸宅を飾るために描かれました。1594年にアントウェルペン市から大公エルンストへ贈られ、その後ルドルフ2世、レオポルト・ヴィルヘルム大公のコレクションを経て、現在のウィーンの所蔵へとつながります。
どこで見られる?
- 所蔵先:ウィーン美術史美術館 絵画館(Kunsthistorisches Museum Wien, Gemäldegalerie)
- 都市:オーストリア・ウィーン
- 展示室:第X室(Saal X / Room X)。《バベルの塔》など他のブリューゲル作品と同じ「ブリューゲルの間」に並びます
- 予約の要否:2026年9月8日から、入館には時間指定(タイムスロット)の予約が必要です。公式サイトでのオンライン購入は割安で、一般はオンライン22ユーロ、窓口24ユーロです
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 視線を奥へ運ぶ斜めの構図:左手前の狩人と犬の群れから、等間隔に並ぶ裸の木、そして凍った池へと、画面は左上から右下へ斜めに切り込みます。この一本の線に沿って視線が進むうち、手前の重い足取りから遠景の広がりへと自然に導かれます。
- 収穫の乏しい狩り:男たちの槍にぶら下がっているのは、たった一匹の狐だけです。犬はやせて背を丸め、うつむいた背中が徒労を物語ります。祝祭的な冬景色ではなく、生きるための労働として冬が描かれています。
- 氷の上の小さな人々:遠景の池では、スケートを滑る人、氷上の遊戯に興じる人などが豆粒のように動き回っています。左手の宿屋の前では、冬支度のために豚の毛を焼く火から煙が立ちのぼります。狩人たちの疲れた背中と、遠くで遊ぶ人々の軽やかな動きが、同じ画面の中で同時に進行しています。
描かれた背景
ブリューゲルが暮らした16世紀のヨーロッパは、いわゆる小氷期にあたり、厳しい冬がたびたび記録されました。この作品が描かれた前年の冬も酷寒だったと伝えられ、画家が実際に見た冷え込みが画面に反映されていると考えられています。もっとも、《雪中の狩人》の遠景にそびえる鋭い山並みは、平坦なネーデルラントには存在しません。イタリア旅行で越えたアルプスの記憶を、故郷の村の風景に接ぎ木したものと見られています。空を舞うカラスやカササギ、灰緑色に沈んだ空、木々の黒い枝といった要素が、寒さと不吉さをともに漂わせます。人物や出来事を並べる中世以来の月暦画の伝統を受け継ぎながら、風景そのものが主役の座を奪った点に、この作品の大きな転換があります。連作の他の作品が収穫や干し草づくりといった働く季節を描くのに対し、この一点だけは大地が凍りついて生産が止まる時期を扱っており、そのぶん人々の姿は小さく、自然の広がりが画面を支配します。
まとめ
《雪中の狩人》は、画面のどこを見ても小さな物語が進行している絵です。狩人の背中を追い、氷の上の遊びをのぞき、遠くの山まで視線を伸ばすうち、冬の一日がまるごと体験できます。ウィーン美術史美術館の第X室では、《バベルの塔》など他のブリューゲル作品と並べて鑑賞できるので、同じ画家が同じ緻密さで別の主題に取り組んだ様子を比べてみてください。