バベルの塔(ウィーン版):人間の傲慢を描き切った、精密きわまる建設現場

バベルの塔(ウィーン版):人間の傲慢を描き切った、精密きわまる建設現場

名画
作者
ピーテル・ブリューゲル(父)
制作年
1563年
所蔵
ウィーン美術史美術館
所在地
オーストリア・ウィーン

ピーテル・ブリューゲル(父)が1563年に描いたオーク板の油彩。旧約聖書の物語を、クレーンや足場まで見える実在の建設現場のように克明に描いています。ロッテルダムの小型版と対をなす大型版で、ウィーン美術史美術館の絵画館第X室、通称ブリューゲルの間で見られます。

《バベルの塔》は、ピーテル・ブリューゲル(父)が1563年に描いた板絵で、旧約聖書の創世記に記された塔の建設を主題にしています。宗教画でありながら、クレーンや足場、石を切り出す職人まで克明に描き込まれ、まるで16世紀の建設現場を観察したかのような迫真性があります。ウィーン美術史美術館が所蔵し、絵画館のブリューゲルの間で見ることができます。

バベルの塔とは

原題はドイツ語でDer Turmbau zu Babel。オーク材の板に油彩で描かれ、寸法は縦114.4センチ、横155.5センチです。ウィーン美術史美術館の絵画館における所蔵番号は1026で、画面には作者の署名と1563年の年記が入っています。なお、ブリューゲルの《バベルの塔》には現存する油彩が2点あります。ひとつが今回のウィーン版(通称「大バベル」)、もうひとつがロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館が所蔵する版(通称「小バベル」、縦約60センチ、横約74.5センチ)です。日本で大型展の目玉として紹介されることが多いのは後者のロッテルダム版で、両者は構図こそ似ていますが、建築の様式や色調、建設の進み具合が異なります。ウィーン版のほうが一回り大きく、人物の数も格段に多く描かれています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ウィーン美術史美術館 絵画館(Kunsthistorisches Museum Wien, Gemäldegalerie)
  • 都市:オーストリア・ウィーン
  • 展示室:第X室(Saal X / Room X)。世界最大のブリューゲル・コレクションが集まる、通称「ブリューゲルの間」です
  • 予約の要否:2026年9月8日から、入館には時間指定(タイムスロット)の予約が必要です。公式サイトでのオンライン購入は割安で、一般はオンライン22ユーロ、窓口24ユーロです

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 働く人々の途方もない描写:塔の各段には、資材を引き上げる木製のクレーン、丸太を組んだ足場、石を運ぶ荷車、寝起きする小屋までが描かれています。虫めがねを当てたくなるほど小さな人影が、それぞれ別の作業に従事しています。石を切り出す職人、モルタルを練る者、資材を積んだ船を港に着ける者まで、工事の全工程が一望できます。
  • ローマのコロッセオを思わせる外観:塔の外壁に連なるアーチの列は、ブリューゲルが実際に見たローマの円形闘技場を下敷きにしていると考えられています。異教の帝国の遺構を借りることで、聖書の物語に現実味と皮肉が加わりました。
  • すでに傾いている塔:よく見ると各層の水平が保たれておらず、基礎の据え方にも無理があります。完成しないことがあらかじめ画面に書き込まれており、人間の思い上がりという主題が構造そのもので語られています。

描かれた背景

創世記11章によれば、人々は天に届く塔を建てようとして神の怒りを買い、言葉を乱されて散り散りになりました。ブリューゲルが生きた16世紀のアントウェルペンは、ヨーロッパ有数の国際貿易港として急速に富を蓄え、さまざまな言語が飛び交う都市でした。塔の物語は、その繁栄と傲慢を映す鏡として、当時の人々にとって身近な寓意だったと考えられています。ブリューゲルは1552年から53年ごろにイタリアへ旅しており、ローマで目にした古代建築の記憶がこの作品に生かされました。画面左下には、建設を命じたとされる王(ニムロドと解釈されています)が石工たちにひざまずかせている場面が描かれ、権力者の姿と、その足元で黙々と働く無数の人々とが対比されています。塔の内部にはローマ式に、れんがの躯体へ石材を張り付けていく工法が丁寧に描き分けられており、ブリューゲルが建築技術そのものに強い関心を寄せていたことがうかがえます。塔の裾は既存の街や港に食い込み、人間の営みを飲み込みながら伸びていく巨大建築の姿が示されます。

まとめ

《バベルの塔》は、聖書の教訓を語りながら、同時に16世紀の土木技術と労働の記録にもなっている稀有な作品です。ウィーン美術史美術館の第X室では、《雪中の狩人》をはじめとする他のブリューゲル作品と同じ部屋で鑑賞できます。近づいて細部を追い、離れて塔の全体像を眺める。この絵は、時間をかけるほど見えてくるものが増えていきます。