ホロフェルネスの首を斬るユディト:ためらいのない手つき
- 作者
- アルテミジア・ジェンティレスキ
- 制作年
- 1620年頃
- 所蔵
- ウフィツィ美術館
- 所在地
- イタリア・フィレンツェ
アルテミジア・ジェンティレスキが1620年頃に描いたバロックの傑作で、ウフィツィ美術館D29室にカラヴァッジョ作品と並んで展示されています。暗闇から浮かび上がる三人の身体、そして作業に集中するユディトのためらいのない表情が、この一枚を特別なものにしています。
アルテミジア・ジェンティレスキが1620年ごろに描いた「ホロフェルネスの首を斬るユディト」は、フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵するバロック絵画の代表作です。旧約聖書外典の一場面を、暗闇のなかで光を浴びる三人の身体として描き、見る人を至近距離まで引き寄せます。女性画家として異例の経歴を歩んだ画家の、最もよく知られた作品です。
「ホロフェルネスの首を斬るユディト」とは
ウフィツィ美術館の公式情報では、制作は1620年ごろ、カンヴァスに油彩、所蔵番号は1890年目録1567番です。主題は、敵将ホロフェルネスの陣営に入り込んだ寡婦ユディトが、酒宴のあと眠り込んだ将軍の首を落とす場面。美術館の解説は「酔って肥えた将軍が寝台に横たわり、髪をつかまれ、剣が首に突き立てられている」と描写し、ユディトの衣に飛び散る血までが描き込まれていると説明しています。聖書の物語としてではなく、いま目の前で起きている出来事として提示されているのが、この作品の強さです。ユディトの物語は、敵の将軍を討ち取って町を救った女性の英雄譚として、ルネサンス期から数多く描かれてきました。しかしその多くは、首を落とした後の場面や、静かに首を袋に収める場面を選びます。アルテミジアはあえて最も直接的な瞬間を選び、逃げ場のない構図に仕立てました。なお、彼女は同じ主題をナポリのカポディモンテ美術館にある作品でも描いており、本作は1612年頃のナポリ版から8年ほどのちの再挑戦にあたります。
どこで見られる?
- 所蔵先:ウフィツィ美術館/所蔵番号 1890年目録1567番
- 都市:イタリア・フィレンツェ
- 展示室:D29室(カラヴァッジョとアルテミジア)。公式サイトの作品ページで案内されている展示室です。
- 予約の要否:入館にはチケットが必要です。混雑を避けるため、公式サイトでの日時指定予約がすすめられています。
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 三人が押し合う構図:ユディトと侍女、そしてホロフェルネスの身体が画面の中央で密着し、力の向きが交差します。侍女が押さえ込み、ユディトが体重をかけて剣を引く。二人の共同作業として描かれている点が大きな特徴です。
- 強い明暗:暗い背景から腕と顔だけが浮かび上がります。カラヴァッジョに連なる明暗法が、場面の緊張を一気に高めています。光源は画面の外に想定されており、見る側が現場に立ち会っているような感覚が生まれます。
- ためらいのない表情:ユディトは恐怖でも陶酔でもなく、目の前の作業に集中する顔をしています。この冷静さが、数多く描かれてきたユディト像のなかで本作を際立たせています。腕をまくり上げ、体を引いて距離を取る姿勢にも、実際の動作としての説得力があります。
描かれた背景
アルテミジアは1593年にローマに生まれ、画家オラツィオ・ジェンティレスキの娘として育ちました。本作はローマで完成し、フィレンツェのメディチ家、とくにコジモ2世のために描かれたと考えられています。しかしその生々しい写実は当時のフィレンツェで受け入れられず、美術館の解説によれば、当初はギャラリーでの展示が拒まれました。報酬の支払いが滞った際には、ガリレオ・ガリレイの助力を得て回収にあたったとも伝えられています。彼女はフィレンツェの美術アカデミー(アカデミア・デッレ・アルティ・デル・ディゼーニョ)に女性として初めて迎えられた画家でもあり、イタリア各地の宮廷で活躍しました。
まとめ
「ホロフェルネスの首を斬るユディト」は、暴力の場面でありながら、描き手の冷静な観察が画面全体を貫いています。ウフィツィ美術館のD29室では、カラヴァッジョの作品と並べて展示されており、二人の明暗法を見比べることができます。アルテミジアの名があらためて高く評価されている理由は、実物の前に立つとよく分かるはずです。フィレンツェを訪れるなら、レオナルドやティツィアーノの部屋とあわせて、この一室にも時間を割いてみてください。