湖畔:黒田清輝が芦ノ湖畔で描いた、日本近代洋画を代表する夏の一枚

湖畔:黒田清輝が芦ノ湖畔で描いた、日本近代洋画を代表する夏の一枚

名画
作者
黒田清輝
制作年
明治30年(1897)
所蔵
東京国立博物館(黒田記念館)
所在地
東京都台東区
指定
重要文化財

浴衣姿の女性が団扇を手に湖畔に座る、黒田清輝の重要文化財。芦ノ湖畔で描かれ、当初は《避暑》と題されました。上野の黒田記念館で新年・春・秋の年三回、各二週間ほど公開されます。

浴衣姿の女性が団扇を手に、湖のほとりの岩に腰かけている。黒田清輝の《湖畔》は、日本近代洋画を代表する一点として教科書にも載る作品です。東京国立博物館が所蔵し、上野の黒田記念館で年に三回、期間を限って公開されます。

湖畔とは

明治30年(1897)に描かれたカンヴァスの油彩画で、寸法は縦69.0センチ、横84.7センチ。1999年6月7日に重要文化財へ指定されました。

制作の舞台は箱根の芦ノ湖畔です。黒田はこの地でひと月ほどをかけて筆を進めました。モデルは金子たね、のちに黒田の妻となる女性です。発表当初の題は《避暑》で、涼をとる夏の情景として示されました。

女性が身につけているのは白地の浴衣で、手には団扇。髪は結い上げられ、首筋が涼しげに見えます。背後には芦ノ湖の水面と、対岸の山影がぼんやりと広がります。人物と背景の境目はあいまいで、輪郭線でくっきりと区切るという発想がありません。画面を支配するのは、水色と灰色をふくむ淡い調子です。光と大気のなかに人物を溶け込ませるこの描き方は、黒田がフランスで学んだ外光派の手法を、日本の湿った夏の空気に翻訳したものといえます。

どこで見られる?

  • 所蔵先:東京国立博物館(黒田記念館)
  • 公開状況:常時展示ではありません。黒田記念館の特別室で、新年・春・秋の年三回、各二週間ほど公開されます。特別室では《読書》《舞妓》《智・感・情》もあわせて鑑賞でき、黒田記念館の観覧料は無料です
  • 所在地:東京都台東区上野公園13-9

公開時期は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 紫がかった影:肌や浴衣に落ちる影は黒ではなく、青や紫を帯びた色で置かれています。影にも色があるという外光派の考え方が、そのまま画面に実践されています
  • 湖面の筆致:背景の水面は細部を描き込まず、横方向の筆跡を残したまま仕上げられています。近づくと絵具の動きが、離れると静かな湖が見えます。どこまで描き込むかを見極める判断が、この絵の軽やかさを決めています
  • 視線の置き方:女性はこちらを見ているようで、焦点はわずかに外れています。肖像画でも風俗画でもない、宙づりの静けさがこの絵の余韻をつくります

描かれた背景

黒田清輝(1866〜1924)は、法律を学ぶためにフランスへ渡りながら、現地で画家に転じた人物です。ラファエル・コランに師事し、明治26年(1893)に帰国しました。帰国後は白馬会を結成して東京美術学校で教鞭をとり、明るい色彩と外光表現を日本に根づかせる中心になります。

当時の日本では、洋画をどう自分たちのものにするかが大きな課題でした。西洋の技法を学んだうえで、いったい何を描くのか。黒田は歴史画や裸体画にも挑みましたが、《湖畔》のように日常の一場面を淡い光のなかで描く方向にこそ、彼の資質がよく表れています。日本の油彩画がまだ黒く重い画面を脱しきれずにいた時期に、この明るさは際立っていました。

《湖畔》は明治30年秋の第2回白馬会展に《避暑》の題で出品され、明治33年(1900)のパリ万国博覧会にも《智・感・情》などとともに送られました。日本の風俗を西洋で学んだ技法で描くという課題に、黒田が一つの答えを出した作品です。

黒田記念館そのものにも触れておきたいところです。この建物は黒田の遺言と遺産をもとに昭和3年(1928)に竣工した施設で、岡田信一郎の設計による重厚な洋風建築です。上野公園の東京国立博物館の敷地に隣接して建っており、館内には黒田の作品と資料が収められています。特別室以外の展示室では、黒田の他の油彩やデッサンを通年で見ることができます。観覧料が無料なので、上野を訪れた際に立ち寄りやすいのも魅力です。

まとめ

《湖畔》は、日本の夏の空気そのものを画面に定着させた絵です。黒田記念館は観覧無料で、特別室の公開期間さえ合えば気軽に本物と向き合えます。年三回という限られた機会を、あらかじめ調べてから訪ねてみてください。