ピアノを弾く若い男:印象派には珍しい、男性とピアノの室内画

ピアノを弾く若い男:印象派には珍しい、男性とピアノの室内画

名画
作者
ギュスターヴ・カイユボット
制作年
1876年
所蔵
アーティゾン美術館
所在地
東京都中央区

カイユボットが1876年の第2回印象派展に出品した室内画で、弾いているのは画家の弟マルシャルです。当時は珍しかった男性とピアノの組み合わせで知られます。東京・京橋のアーティゾン美術館が所蔵し、「石橋財団コレクション選」の5階展示室で公開されています。

アーティゾン美術館が所蔵するカイユボットの《ピアノを弾く若い男》は、1876年の第2回印象派展に出品された作品です。ピアノに向かうのは画家の弟マルシャル。当時の絵画では珍しい「男性とピアノ」の組み合わせが、静かな緊張感を生んでいます。

《ピアノを弾く若い男》とは

ギュスターヴ・カイユボット(1848–1894)が1876年に描いた油彩・カンヴァスの作品で、大きさは81.0×116.0センチです。舞台はパリのミロメニル通りにあったカイユボット家の自邸。鍵盤に向かう若者は、画家の弟マルシャルです。アーティゾン美術館の解説によれば、この作品は1876年の第2回印象派展に《床削り》(オルセー美術館)とともに出品された6点のうち、最も批評で取り上げられた1点でした。カイユボットは自ら印象派展に出品する一方、仲間の活動を経済的に支えたことでも知られる画家です。

画面は横長で、左手の窓から入る光が室内を照らします。演奏者は背をこちらに向けるでもなく、真横から静かにとらえられ、楽譜と鍵盤だけに集中しています。派手な物語も、こちらへ向けられた視線もありません。ただ音楽に没入する一人の男と、その周囲を満たす光と反射だけが描かれています。都市に生きる市民の、ごくふつうの午後。そうした場面を絵画の主題として引き受けたところに、この画家の新しさがあります。

どこで見られる?

  • 所蔵先:アーティゾン美術館(公益財団法人石橋財団)
  • 所在地:東京都中央区京橋1-7-2、ミュージアムタワー京橋
  • 展示状況:「石橋財団コレクション選」(2026年6月23日~10月4日)の5階展示室に出品されています。コレクション選は展示替えを行うため、いつでも見られるわけではありません
  • 観覧料:ウェブ予約チケットが一般1,200円、窓口販売チケットが一般1,500円です。高校生・大学生・専門学校生はウェブ予約のうえ無料、中学生以下も無料です
  • 入館方法:日時指定予約制です。開館時間は10時から18時、金曜日は20時までです

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 男性が弾くという選択:19世紀後半のパリで、ピアノは上流市民のステイタスを示すものでした。絵画の主題になることも多かったのですが、ルノワールに見られるように描かれるのは多くが女性で、男性がモデルとなるのは稀でした
  • 反射のつらなり:窓から入る光が鍵盤や脚に反射し、ピアノの側面には鍵盤と指が、蓋には壁の柱が映り込みます。室内の光を追いかける目で描かれています
  • 植物文で埋まった室内:壁面の装飾、カーテン、絨毯、椅子。調度品に施された植物文が、富裕な市民の瀟洒な部屋を伝えます。軽快な筆触を特色とする印象派の中では、かなり異質な精緻さです

アーティゾン美術館の解説は、この作品の技法や主題が、同じく都市風景と市民たちを主題としたドガの室内画に似ていると指摘しています。光と影の描写を探る印象派には、戸外の明るい風景画だけでなく、こうした室内の探求というもうひとつの道があったことがわかります。

この絵が日本にある理由

この作品を持つ石橋財団のコレクションは、ブリヂストン創業者・石橋正二郎(1889–1976)の収集から始まりました。石橋は洋画家・坂本繁二郎との縁から青木繁の作品を守ろうと収集を始め、日本近代洋画を集めたのち、戦後の復興期に市場へ出てきた西洋美術へと関心を広げます。「明るい絵が好きだ」と語った石橋は、とりわけ印象派を好みました。1952年に東京・京橋のブリヂストンビル2階でブリヂストン美術館が開館し、1956年には石橋財団が設立されます。2020年1月18日にアーティゾン美術館として再出発してからは、展示室が従来の約2倍に広がり、デザインや女性作家の作品など収集の幅もさらに広がりました。財団のコレクションは現在およそ3,000点にのぼります。

まとめ

印象派といえば戸外の光、というイメージを気持ちよく裏切ってくれる一点です。室内に差し込む光と、それを受け止める黒いピアノ。音は聞こえないのに、演奏の集中だけが伝わってきます。東京・京橋のアーティゾン美術館で、ぜひ近づいて反射を追いかけてみてください。日時指定予約制なので、訪問前のチケット確保をお忘れなく。