帽子をかぶった自画像:セザンヌが自分だけを見つめた緑の一枚
- 作者
- ポール・セザンヌ
- 制作年
- 1890-94年頃
- 所蔵
- アーティゾン美術館
- 所在地
- 東京都中央区
セザンヌが1890年代前半に描いた自画像で、東京・京橋のアーティゾン美術館が所蔵しています。緑を基調とする規則正しい筆触と、意図的な塗り残しが特徴です。公開は展示替えのある「石橋財団コレクション選」の中で行われるため、訪問前の確認が欠かせません。
アーティゾン美術館が所蔵するセザンヌの《帽子をかぶった自画像》は、画家が50代を迎えたころの一点です。生涯30点を超える自画像を描いたセザンヌが、他人の目を気にせず「見ること」だけに集中した記録として、静かな迫力をたたえています。
《帽子をかぶった自画像》とは
ポール・セザンヌ(1839–1906)が1890年から1894年頃に制作した油彩・カンヴァスの作品です。大きさは61.2×50.1センチとされます。アーティゾン美術館の解説によれば、自画像は、モデルを使うことを不得手としたセザンヌが、唯一他者を意識せず、純粋に対象として人物を見るという造形探求の行為でもありました。柔らかい帽子をかぶり、肩越しにこちらを見据える姿。背景は具体的な室内を描くというより、緑や紫の色斑が呼吸するように置かれ、人物と一体になっています。
南フランスのエクス=アン=プロヴァンスに生まれたセザンヌは、初期の印象派展に加わったのち、仲間から離れて独自の造形を突き詰めていきました。りんごや山を何度も描き直したように、自分の顔もまた繰り返し観察の対象になります。生涯に30点を超える自画像を残したのは、絵のためのモデルを確保するという実際的な事情もありましたが、それ以上に「見て、置く」という手続きを試すのに、自分ほど都合のよい相手はいなかったからでしょう。1890年代の作である本作は、その探求がすでに深いところまで進んだ段階の一点です。
どこで見られる?
- 所蔵先:アーティゾン美術館(公益財団法人石橋財団)
- 所在地:東京都中央区京橋1-7-2、ミュージアムタワー京橋
- 展示状況:常設展示ではありません。2026年6月23日から10月4日までの「石橋財団コレクション選」の出品リストには本作は含まれておらず、同じ時期はセザンヌの別の作品《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》が5階展示室に出ています。コレクション選は展示替えを重ねるため、公開の機会は時期によって変わります
- 観覧料:ウェブ予約チケットが一般1,200円、窓口販売チケットが一般1,500円です。高校生・大学生・専門学校生はウェブ予約のうえ無料、中学生以下も無料です
- 入館方法:日時指定予約制です。開館時間は10時から18時、金曜日は20時までです
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 左右で違う表情:影に隠れる左側には画家の憂愁が垣間見える一方、ハイライトの当たる右側の鋭い眼差しには、自己に厳格な画家の自意識がうかがえます
- 緑を基調にした画面:肌にも上着にも背景にも緑が入り込み、全体がひとつの色の世界としてまとまっています
- 意図的な塗り残し:動的でありながら規則正しい筆触と、あえて絵具を置かない余白。完成と未完成のあいだで画面が呼吸しています
肩越しにこちらを振り返る構図は、鏡を見ながら描いたことの名残でもあります。画家が自分を見る目と、こちらが絵を見る目が正面からぶつかる。その居心地の悪さこそが、この小さな画面の力です。
この絵が日本にある理由
この自画像を持つ石橋財団のコレクションは、ブリヂストン創業者・石橋正二郎(1889–1976)が築いたものです。石橋は、図画の恩師だった洋画家・坂本繁二郎との再会をきっかけに、早世した同郷の画家・青木繁の作品を守るところから収集を始めました。やがて日本近代洋画に加え、第二次世界大戦後の復興期に市場へ出た西洋美術も積極的に購入します。1952年、東京・京橋のブリヂストンビル2階にブリヂストン美術館を開館。1956年には石橋財団を設立し、コレクションの大半を寄贈して公のものとしました。美術館は2015年に閉館して建て替えられ、2020年1月18日にアーティゾン美術館として開館しています。セザンヌはこの財団コレクションの柱のひとりで、油彩から水彩、素描まで複数の作品が収められています。
まとめ
穏やかな帽子姿の下に、自分を測り続ける画家の目があります。派手さはありませんが、一度目が合うとなかなか離れられない一枚です。ただし公開は展示替えのある「石橋財団コレクション選」の中で行われるため、出会えるかどうかは訪ねる時期次第。アーティゾン美術館の公式サイトで出品作品リストを確認してから、京橋へ向かってください。

