眠る二人の子供:ルーベンスが姪と甥に向けたやわらかな眼差し
- 作者
- ペーテル・パウル・ルーベンス
- 制作年
- 1612-13年頃
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
ルーベンスが亡き兄の遺した姪と甥を描いた1612年頃の油彩スケッチ。素早い筆さばきと幼子の頬の質感が魅力で、二人の顔は後にミュンヘンやルーヴルの大作へ転用されました。国立西洋美術館の常設展で公開されています。
ペーテル・パウル・ルーベンスの《眠る二人の子供》は、国立西洋美術館が所蔵する小さな油彩画です。無邪気な寝顔をみせる二人は、画家の兄の子どもたち。大画面の宗教画で知られるルーベンスの、ごく私的でやわらかな一面が伝わってくる一枚です。
《眠る二人の子供》とは
1612年から13年ごろに描かれた油彩・板の作品で、寸法は縦50.5センチ、横65.5センチ。国立西洋美術館の所蔵番号はP.1972-0001です。
描かれているのは、右がクララ、左がフィリップとされる二人の幼子です。ルーベンスの兄フィリップの子で、それぞれ1610年と1611年の生まれ。制作年はこの二人の年齢から推定されています。兄フィリップは1611年に世を去っており、ルーベンスは残された姪と甥にとりわけ深い愛情を注いだと伝えられます。
本作は完成作ではなく、大画面のための習作として描かれたスケッチです。実際、この二人の顔は後に切り離して使われ、ミュンヘンにある《花環の聖母》やルーヴル美術館の《聖母と天使たち》といった大作のなかに登場します。
ルーベンスは17世紀フランドルを代表する画家で、大規模な工房を構え、宗教画から神話画、肖像画まで膨大な作品を送り出しました。外交官としてヨーロッパ各地を渡り歩いた人物でもあります。そうした華やかな経歴の裏側で、身近な子どもの寝顔をこれほど丁寧に写し取っていたことが、この小さな板絵から伝わってきます。
どこで見られる?
- 所蔵先:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
- 所在地:JR上野駅公園口からすぐ。開館時間は9時30分から17時30分(金曜・土曜は20時まで)で、月曜休館です。
- 展示状況・観覧料:常設展(コレクション展)で公開されており、同館の所蔵作品検索でも「展示中」と表示されています。常設展の観覧料は一般500円、大学生250円。高校生以下と18歳未満、65歳以上は無料です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 素早い筆さばき:習作ならではの勢いのある筆致がそのまま残っています。仕上げられた大作では見られない、画家の手の速さが直に伝わります。
- 頬の質感:透明な絵の具と不透明な絵の具を巧みに使い分け、絵の具の厚みや色調の差で幼子のふっくらとした頬を立体的に描き出しています。
- 二つの寝顔の描き分け:左のフィリップと右のクララでは、顔の向きも表情も違います。横65.5センチという手ごろな画面だからこそ、近づいて筆の一本一本を追う楽しみがあり、大作の前では見落としがちな細部がここでは主役になります。
この絵が日本にある理由
本作は松方コレクションではなく、国立西洋美術館が戦後に購入した作品です。所蔵番号のP.1972-0001が、その時期を物語っています。
それまでの来歴もはっきりしています。1796年、プロイセンの王女ルイーゼの結婚にともなう持参品としてポーランドの名門ラジヴィウ家に入り、以後は代々の相続によって同家に伝えられました。1972年に同家を離れ、国立西洋美術館の所蔵となります。
国立西洋美術館は1959年、フランスから返還された松方コレクションを受け入れるために上野公園に開館しました。開館後は購入や寄贈によって収集範囲を広げ、中世末期から20世紀初頭までの西洋美術を通覧できるコレクションを築いています。本作のようなフランドル絵画の名品も、その拡充の成果のひとつです。
まとめ
《眠る二人の子供》は、外交官としても活躍した大画家ルーベンスの、家族に向けたまなざしがそのまま残る作品です。習作でありながら、あるいは習作だからこそ、画家の手つきが生々しく感じられます。上野の常設展で通年公開されていることが多いので、大作を見終えたあとに、静かに向き合ってみてください。ミュンヘンやパリにある完成作を思い浮かべながら眺めれば、一枚の習作が名画へと育っていく道筋まで想像できます。国立西洋美術館の常設展は一般500円と入りやすく、こうした小品とじっくり時間を過ごせるのも魅力です。


