聖トマス:蝋燭ではなく昼の光で描かれたラ・トゥールの真作
- 作者
- ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
- 制作年
- 1620-30年代
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
真作が世界に40点足らずしか残らないラ・トゥール。国立西洋美術館の《聖トマス》は、蝋燭ではなく昼の光で描かれた一枚です。1987年に南仏アルビで発見され、一度日本に入って再び海外へ出たのち、2003年度に同館が購入しました。上野で会える希少な17世紀フランス絵画です。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、いったん忘れられ、20世紀になって再評価された17世紀フランスの画家です。真作は世界に40点足らずしか残っていませんが、そのうちの一枚《聖トマス》が東京・上野の国立西洋美術館にあります。蝋燭の光を描いた「夜の画家」というイメージとは違う、昼の光に照らされた使徒の姿です。
《聖トマス》とは
描かれているのは、キリストの十二使徒のひとりである聖トマスです。インドへ伝道に赴き、異教の人々に槍で突かれて殉教したと伝えられることから、槍が彼の持物(アトリビュート)になっています。この槍は同時に、十字架上のキリストの脇腹を刺したローマ兵の槍の暗喩でもあります。トマスは復活したキリストを疑い、その槍傷に触れて確かめた「疑い深い使徒」としても知られる人物です。
技法は油彩・カンヴァス、寸法は64.6×53.9センチメートル、所蔵番号はP.2003-0002です。ラ・トゥールは東フランスのロレーヌ地方で活躍した画家で、蝋燭の光に照らされた神秘的な画面を多く残したことから「夜の画家」と呼ばれます。現存する真作が40点にも満たないため、同館の解説はオランダの画家フェルメールとしばしば比較される存在だと述べています。
国立西洋美術館の所蔵作品検索は制作年を記載していません。顔の皺に見られる荒々しい自然主義から、画家の若い時期の作品と考えられています。本作はキリストと十二使徒を描いた13点の連作(いわゆる「アルビの使徒」)の一枚で、1690年頃から18世紀末までフランス南部アルビの大聖堂に置かれていました。ラ・トゥールの作品は蝋燭の光による「夜の絵」がよく知られますが、この連作は昼の光による「昼の絵」にあたります。
どこで見られる?
- 所蔵先:国立西洋美術館(所蔵番号 P.2003-0002)
- 所在地:東京都台東区上野公園7-7
- 展示状況・観覧料:2026年8月時点で、同館の所蔵作品検索は本作を「現在は展示していません」と表示しています。常設展(コレクション展)の観覧料は一般500円、大学生250円、高校生以下と65歳以上は無料です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 「夜の画家」が描いた昼の光:蝋燭の炎ではなく、静かな日中の光のもとで人物がとらえられています。同じ画家の二つの顔を見比べられる、貴重な一枚です。
- 顔に刻まれた皺の克明さ:皺の一本一本まで追う細部描写と、幾何学的に単純化された大きな形態が同居しています。同館はこの組み合わせを、ラ・トゥールの真作にのみ見られる特徴だと説明しています。
- 斜めに構えた槍:画面を横切る槍が構図に緊張を生み、殉教という結末と、疑いという逸話の両方を一本のかたちで示します。手元と視線の関係にも注目してみてください。
この絵が日本にある理由
この作品の存在が世に知られたのは1987年のことでした。フランス南部アルビの個人コレクションで見つかり、1991年6月にモナコのクリスティーズで競売にかけられます。その後、大阪の梅田画廊を経て、1991年9月には東京の石塚コレクションに入りました。つまり本作は、一度この時点で日本に渡っていたことになります。
ところが作品は日本にとどまりませんでした。1993年12月、ロンドンのクリスティーズで再び競売にかけられ、海外へ出ていきます。国立西洋美術館がこれを購入したのは2003年度のことでした。松方コレクション由来でも個人からの寄贈でもなく、館が自ら買い戻すようにして日本に落ち着いた一枚です。2005年には同館で「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール:光と闇の世界」展が開かれ、本作はカタログ第1番の出品作となりました。2016年の「カラヴァッジョ展」にも出品されています。
まとめ
《聖トマス》は、真作40点足らずという希少な画家の油彩画を、日本の美術館が所蔵作品として持っている数少ない例です。常に展示されているわけではないので、上野へ向かう前に同館の所蔵作品検索で展示状況を確かめておくと確実です。蝋燭の光ではないラ・トゥールに出会えたなら、それはかなり幸運な一日といえます。



