煙草を吸う男:燃え木の光が照らす、ラ・トゥールの静かな一枚

煙草を吸う男:燃え木の光が照らす、ラ・トゥールの静かな一枚

名画
作者
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
制作年
1646年
所蔵
東京富士美術館
所在地
東京都八王子市

世界に約40点しか残らないラ・トゥールの真作のひとつで、日本国内にある2点のうちの1点。燃え木の光に照らされた男を描いた1646年の作品で、1985年にパリの競売で東京富士美術館が購入しました。八王子市の同館が所蔵しています。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《煙草を吸う男》は、東京都八王子市の東京富士美術館が所蔵する17世紀フランス絵画です。世界に約40点しか現存しないとされるラ・トゥールの真作のうちの1点で、日本国内にある2点のうちのひとつでもあります。煙草を吸うという日常の場面が、宗教画のような静けさで描かれています。

《煙草を吸う男》とは

1646年に描かれた油彩・カンヴァス作品で、寸法は縦70.8センチ、横61.5センチです。画面には、燃え木の小さな光に照らされた男がひとり。鋭い写実主義と、カラヴァッジオ風のドラマティックな明暗法によって、ありふれた風俗画の主題が深い精神性をたたえた画面へと変わっています。

ラ・トゥールは長いあいだスペイン派やイタリア画家の作品群に紛れ込み、20世紀初頭までほとんど忘れられていた画家でした。1930年代から研究が進み、17世紀フランスを代表する巨匠として再評価されます。本作は1973年5月に南フランスで発見され、同年ピエール・ローザンベールとフランソワ・マセ・ド・レピネの著書で作品番号53として初めて世に紹介されました。洗浄後の画面を実見したローザンベールとクリストファー・ライトは、ともにラ・トゥールの最上の作例だと評価しています。なお多くの研究者は、息子エティエンヌとの共同制作の可能性も指摘しています。

それでも、画面全体を支配する均衡の美しさ、立体感あふれる描写の力強さ、仕上げの繊細な質の高さという三つの点で、本作の評価はゆるぎません。ラ・トゥールの工房では1640年代に、煙草を吸う男という主題の作例がいくつも生み出されましたが、その多くには画家本人の手が及んでいないとされています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:東京富士美術館(東京都八王子市谷野町492-1)
  • 所在地:JR八王子駅・京王八王子駅からバス。開館時間は10時から17時(受付は16時30分まで)、月曜休館(祝日の場合は開館し翌火曜が休館)です。なお同館は館内整備のため2026年6月22日から10月2日まで全館休館し、10月3日に再開します。
  • 展示状況・観覧料:同館の常設展示「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」で公開されることがあります。館内整備による休館を挟み、この常設展示は2026年10月3日から12月27日の会期で再開されます。ただし展示替えや館外貸出があり、2025年9月から2026年2月にはパリのジャックマール=アンドレ美術館のラ・トゥール展へ貸し出されました。観覧料は大人1,500円(オンライン・割引1,200円)、大学高校生900円、中学小学生500円で、常設展だけのチケットは販売されず、1枚で開催中の展示をすべて観覧できます。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 燃え木の光:光源は小さな燃え木ひとつ。顔と手だけが闇から浮かび上がり、画面の大半は深い影に沈みます。ラ・トゥールが得意とした夜の情景です。
  • 均衡の美しさ:立体感あふれる力強い描写と、仕上げの繊細さが同居しています。研究者が最上の作例と口をそろえるのは、この完成度ゆえです。
  • 風俗画を超えた静けさ:主題はただ煙草を吸う男。それでも画面には宗教画のような沈黙が流れ、来るべき17世紀フランス古典主義の予感すら漂います。

この絵が日本にある理由

本作が日本にやってきた経緯は、比較的新しいものです。1973年に南フランスで発見されて研究者に紹介された後、1985年12月にパリで競売にかけられ、そこで東京富士美術館が購入しました。同館は1983年に八王子市に開館した美術館で、日本と東西の美術を幅広く収集しています。

これにより、日本国内で見られるラ・トゥールの真作は2点になりました。もう1点は、国立西洋美術館が所蔵する《聖トマス》です。2005年3月には日本で初めてのラ・トゥール展が国立西洋美術館で開かれ、この画家の知名度が一気に高まりました。世界でも数十点しか残らない画家の作品を、東京都内で見られること自体が幸運だと言えます。

まとめ

《煙草を吸う男》は、忘れられた画家が20世紀に再発見され、その真作がさらに1973年に見つかり、1985年の競売を経て八王子にたどり着いた一枚です。燃え木の光に照らされた静謐な画面の前に立てば、17世紀フランスの夜がそのまま目の前に現れます。八王子まで足を延ばす価値のある作品です。同館は2026年10月3日に休館明けとなるので、訪ねる際は展示中かどうかを事前に確認しておくと安心です。