睡蓮(東京富士美術館):浮世絵の「切り取り」を取り入れたモネ68歳の水面

睡蓮(東京富士美術館):浮世絵の「切り取り」を取り入れたモネ68歳の水面

名画
作者
クロード・モネ
制作年
1908年
所蔵
東京富士美術館
所在地
東京都八王子市

モネが68歳の1908年に描いた《睡蓮》連作の一点で、東京都八王子市の東京富士美術館が所蔵します。明暗を抑えた繊細で優美な色づかいと、浮世絵に学んだ大胆な構図の切り取りが響き合う、連作のなかでも最も軽快な作風といわれる一枚です。

クロード・モネの《睡蓮》は、画家が68歳だった1908年に描かれた連作のうちの一点です。膨大な睡蓮シリーズのなかでも、明暗の差を抑えた軽やかな作風で知られます。この作品は東京都八王子市の東京富士美術館が所蔵しています。

《睡蓮》(東京富士美術館蔵)とは

技法は油彩・カンヴァス、寸法は101.0×90.0センチです。モネは1908年に15点の睡蓮を描いており、本作はそのうちの一点にあたります。翌1909年5月には、パリのデュラン=リュエル画廊で開かれた個展「睡蓮ー水の風景連作」に出品されました。

モネは晩年、ジヴェルニーの自宅の池をほとんど唯一の主題としました。空も岸辺も描かず、水面だけを正面から見つめ続けたのです。本作でも画面には地平線がなく、水に映る空と雲、浮かぶ睡蓮の葉と花だけが広がります。見る人は上下の感覚を失い、水面をのぞきこんでいるのか空を見上げているのか分からなくなる。その浮遊感こそが、モネが求めた効果でした。

どこで見られる?

  • 所蔵先:東京富士美術館
  • 所在地:東京都八王子市谷野町492-1
  • 展示状況・観覧料:常設展示「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」の会期は2026年10月3日〜12月27日と、2027年1月26日〜3月28日の2期。観覧料は開催中のすべての展示が対象で、2026年10月3日〜12月27日の会期は当日券が大人1,500円、大学・高校生900円、中学・小学生500円(オンラインチケットは大人1,200円、大学・高校生800円、中学・小学生400円)です。開館時間は10時〜17時(受付は16時30分まで)、休館日は月曜日(祝日・振替休日の場合は開館し翌火曜日が休館)、年末年始、展示替期間です。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 浮世絵ゆずりの「切り取り」:モネは水面の一部だけを大胆に切り取ることで、画面の外に広がる池全体を想像させています。これは日本の浮世絵版画がもつ、一部を描いて全体を表わすという暗示的な手法を取り入れたものと考えられています。日本の版画がフランスの巨匠を経由して、また日本の美術館へ戻ってきた形です。
  • ロココを思わせる優美な色:本作は明暗の対比を極力抑え、繊細で優美な色彩と装飾性を見せている点が特徴です。膨大な睡蓮の連作のなかでも最も軽快な作風とされ、後年の重厚な大画面とはまったく違う表情を見せます。
  • 縦長の画面がつくる深さ:101×90センチというやや縦長の比率は、水面をのぞきこむ視線と自然に重なります。近づいて見ると細かな筆触の集まりに、離れて見ると澄んだ水の広がりに変わる。この距離による見え方の変化こそ、実物ならではの体験です。

この絵が日本にある理由

東京富士美術館は1983年11月3日に開館した私立美術館で、創立者は池田大作です。開館にあたってはフランスの美術史家ルネ・ユイグが深く関わり、1983年6月には同館の名誉館長の称号を受けています。開館直後の1983年11月には「近世フランス絵画展」を開催するなど、当初からフランス近代絵画は柱のひとつでした。

同館の収蔵品は日本・東洋・西洋にわたる約3万点にのぼり、西洋絵画は16世紀のイタリア・ルネサンスから20世紀の近現代美術までを網羅する国内屈指のコレクションとして知られています。印象派を代表するモネの睡蓮は、その流れのなかで欠かせない一点として収められました。なお、本作ときわめて似た構図の同年作がウェールズ国立美術館に所蔵されており、連作という制作方法を考えるうえでも興味深い一枚です。

まとめ

東京富士美術館の《睡蓮》は、モネ68歳の年に生まれた15点の連作のひとつで、軽やかな色彩と浮世絵ゆずりの構図が同居する作品です。日本の版画から学んだ視点が、めぐりめぐって八王子の展示室で見られるという事実そのものが面白いところ。水面の前に立って、上を見ているのか下を見ているのか分からなくなる感覚をぜひ味わってみてください。