眠るジプシー女:月夜の砂漠でライオンが立ちどまる不思議な一枚
- 作者
- アンリ・ルソー
- 制作年
- 1897年
- 所蔵
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)
- 所在地
- アメリカ・ニューヨーク
独学の画家アンリ・ルソーが1897年に描いた油彩画。月夜の砂漠に眠る女性とライオンを、影のない静けさで描きました。故郷に買い取りを断られ、のちに炭商の店先で再発見された一枚。MoMAの5階501室で公開されています。
《眠るジプシー女》は、アンリ・ルソーが1897年に描いた油彩画です。月の出た砂漠に横たわる女性と、その匂いを嗅ぐように立ちどまるライオン。物語も奥行きもはっきりしないまま、ただ静けさだけが画面に残ります。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が所蔵しています。
《眠るジプシー女》とは
英語名は「The Sleeping Gypsy」、フランス語の原題は「La Bohémienne endormie」。作者はアンリ・ルソー(フランス、1844-1910年)、制作年は1897年です。技法は油彩・カンヴァス、寸法は129.5×200.7センチ。MoMAの所蔵番号は646.1939で、クレジットは「Gift of Mrs. Simon Guggenheim(サイモン・グッゲンハイム夫人寄贈)」、担当部門は絵画・彫刻部です。
ルソーはパリの入市税関に勤めながら独学で絵を描き、「ドゥアニエ(税官吏)」と呼ばれました。美術学校で学ばなかったことは長く揶揄の対象でしたが、その独自の画面は20世紀初頭の若い画家や詩人たちを強く惹きつけます。1908年11月にはパリでルソーを主賓とする祝宴が開かれ、会場には彼をたたえる横断幕まで掲げられました。
129.5×200.7センチという横長の画面は、決して小品ではありません。砂漠の地平線が画面を上下に分け、その下に女性が横たわり、右手からライオンが近づく。登場人物は2人と1頭だけで、説明的な要素はほとんど省かれています。ルソーは砂漠にもアフリカにも行ったことがなく、この情景は植物園や図版、雑誌の挿絵などから組み立てられた想像の産物と考えられています。
どこで見られる?
- 所蔵先:ニューヨーク近代美術館(MoMA)
- 都市:アメリカ・ニューヨーク
- 展示室:5階の501室、「アルフレッド・H・バー・ジュニア・ギャラリー」です。1890年から1900年ごろの絵画をまとめた部屋で、公式サイトの作品ページでも公開中と案内されています。
- 予約の要否:MoMAは時間指定制で、公式サイトからのオンライン事前予約が推奨されています。
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 影のない月夜:満月が照らしているのに、人物にもライオンにも地面に落ちる影がほとんどありません。そのため場面は現実の夜というより、夢の中の光景のように見えてきます。
- 縞模様の衣と道具:女性の衣は色帯を並べたような縞で描かれ、傍らにはマンドリンと水差しが置かれています。輪郭がくっきりしていて、切り紙を貼り合わせたような硬質な質感です。
- ライオンの表情:一本ずつ描き込まれたようなたてがみと、こちらを向いた丸い目。獰猛さよりも、立ちどまって考え込んでいるような表情が印象に残ります。
描かれた背景
ルソーは1897年にこの絵を完成させると、故郷であるラヴァル市に買い取りを持ちかけました。ラヴァルはパリの南西およそ320キロにある町です。申し出は断られ、作品はその後行方が分からなくなります。無名の独学画家が自作を故郷に託そうとして断られる。この一件だけでも、当時のルソーがどのような位置にいたかが伝わってきます。再発見は1924年、画家の死から14年後のことで、パリの炭商の店先で見つかりました。油彩画を保管する場所としては、これ以上ないほど過酷な環境です。
1930年代にMoMAが入手し、1939年に館の壁へ掛けられて以来、80年にわたってほぼ途切れることなく公開されてきました。2019年の館の改装休館に合わせて数十年ぶりの本格的な修復が行われ、修復家が初めてX線撮影を実施したところ、表面の下に予想外の構図が隠れていることが分かりました。100年近く塗り重ねられて黄変したニスも取り除かれ、ルソー本来の色がよみがえっています。
まとめ
《眠るジプシー女》は、独学の画家が誰にも似ていない夜の風景をつくり上げた作品です。故郷に断られ、炭商の店先で見つかったという数奇な来歴も、この絵の魅力の一部でしょう。MoMAの5階501室で、修復を経た色を確かめられます。ニューヨークを訪れるなら、時間指定チケットを事前に押さえて向かうのが確実です。