コンスタブル「デダムの谷」:郡山にある、駆け出しの画家が描いた故郷

コンスタブル「デダムの谷」:郡山にある、駆け出しの画家が描いた故郷

名画
作者
ジョン・コンスタブル
制作年
1802年
所蔵
郡山市立美術館
所在地
福島県郡山市

イギリス風景画を代表するコンスタブルが、画家を志して間もない1802年に故郷の谷を描いた油彩です。イギリス美術を収集の柱に掲げる郡山市立美術館が所蔵し、常設展のなかで展示替えをしながら公開しています。観覧料は一般200円です。

ジョン・コンスタブルの《デダムの谷》は、福島県の郡山市立美術館が所蔵する油彩画です。イギリス風景画を代表する画家が、まだ画家を志して間もない1802年に、生まれ育った土地を描いた一枚です。同館はイギリス美術を収集の柱のひとつに掲げており、この作品も常設展のなかで公開されています。

《デダムの谷》とは

制作年は1802年。技法は油彩で、材質は紙とキャンバス、大きさは51.5×61センチメートルです。所蔵番号はFP-1991003、英語の題は「A View of Dedham Vale」とされています。デダムの谷は、イングランド東部サフォークとエセックスの境を流れるストゥア川沿いの一帯で、コンスタブルの生家がある土地です。

同館の解説によれば、コンスタブルは綿密な自然観察にもとづいて身近な風景を描き続けた画家で、その姿勢はのちの印象派に受け継がれました。デダムの谷は彼が生涯にわたって繰り返し描いた主題ですが、本作は画家を志してから間もない時期のもので、忠実な風景描写から故郷への深い愛情が感じられると説明されています。画面左下にはパレットナイフによるタッチがあり、それが全体にリズムを与えているとも述べられています。

1802年といえば、コンスタブルは20代半ば。ロンドンで学びはじめたばかりで、まだ誰も彼を風景画の巨匠とは呼んでいませんでした。有名な《干し草車》が描かれるのは、これより約20年後のことです。つまりこの絵は、後の大作へつながる出発点にあたります。

コンスタブルの絵が当時としてどれほど新しかったのかは、少し説明が要ります。18世紀までのヨーロッパで風景画は、神話や物語の背景として、あるいは理想化された古代の眺めとして描かれるのがふつうでした。実在する田舎の川べりをそのまま主役にするというのは、格の低い仕事と見なされかねない選択だったのです。それでもコンスタブルは、生まれ育った谷を見つめ続けました。その頑固さが、のちにフランスの画家たちを驚かせ、屋外で自然を描くという流れを後押しすることになります。

どこで見られる?

  • 所蔵先:郡山市立美術館(常設展で公開)
  • 所在地:福島県郡山市安原町字大谷地130-2
  • 展示状況・観覧料:常設展は年に数期に分けて展示替えが行われます(2026年度第2期は7月8日から9月27日)。観覧料は常設展が一般200円、高校生・大学生100円で、中学生以下と65歳以上、障がい者手帳をお持ちの方は無料です。企画展の観覧券でも常設展を見られます。開館時間は9時30分から17時(入館は16時30分まで)、休館日は月曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始です。
  • 展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 左下のパレットナイフのタッチ:筆ではなくナイフで置かれた絵具が、画面にリズムを生んでいると同館は説明しています。若い画家の実験が見える部分です。
  • 紙に描いてキャンバスに貼るという作り:材質は「油彩・紙、キャンバス」。屋外で紙に描いた油彩をあとからキャンバスに貼り込んだ作りで、戸外制作の跡がそのまま残っています。
  • 誇張のない故郷の眺め:劇的な出来事も物語もなく、川と木立と空だけがあります。見慣れた景色をそのまま絵にしてよいと決めたところに、この画家の新しさがあります。

この絵が日本にある理由

郡山市立美術館は、イギリス美術、日本の近代美術、本(版)の美術、郷土ゆかりの美術という4つの柱にそって作品を集めてきました。なかでもイギリス近代美術を体系的に収集したコレクションは国内でも有数のもので、ターナーやコンスタブルの風景画から、レイノルズらの肖像画、バーン=ジョーンズらラファエル前派まで、18世紀から19世紀の流れをたどれる構成になっています。

つまりこの《デダムの谷》は、一点だけの目玉として買われたのではなく、イギリス美術史を郡山で通して見せるという計画のなかの一枚です。所蔵番号のFP-1991003が示すとおり、美術館が開館する前後の収集によってこの街へやって来ました。日本でイギリス絵画をまとめて見たいと思ったとき、行き先の候補に郡山が入るのはそのためです。

まとめ

《デダムの谷》は、コンスタブルが画家として歩みはじめた1802年に、故郷サフォークの谷を描いた油彩です。紙に描いてキャンバスに貼った作りや、パレットナイフのタッチに、若い画家の手つきがそのまま残っています。郡山市立美術館の常設展で一般200円で見られ、同じ館ではターナーやラファエル前派までイギリス美術の流れをたどれます。福島まで足をのばす理由になる一枚です。