街路の力:路面電車が三度描かれるイタリア未来派の代表作
- 作者
- ウンベルト・ボッチョーニ
- 制作年
- 1911年
- 所蔵
- 大阪中之島美術館
- 所在地
- 大阪市北区
イタリア未来派の中心画家ボッチョーニが1911年に描いた油彩で、大阪中之島美術館が所蔵します。ヘッドライトを点けた路面電車をコマ送りのように三度描き、青と紫の色面で夜の都市の速度と機械文明の到来を高らかに讃えた一点です。
ウンベルト・ボッチョーニの《街路の力》は、1911年に描かれたイタリア未来派を象徴する油彩画です。夜の都会を走る路面電車のスピードと人工光を、幾何学的に分解された色面で描ききっています。この作品は大阪市北区の大阪中之島美術館が所蔵しています。
《街路の力》とは
技法は油彩・カンヴァス、寸法は99.5×80.5センチです。作者のボッチョーニ(1882〜1916年)は、1910年にカルロ・カッラ、ルイージ・ルッソロ、ジャコモ・バッラ、ジーノ・セヴェリーニらとともに「未来派画家宣言」を発表した、この運動の中心人物でした。彼らが目指したのは、モデルや過去の具象美術の伝統から自由になり、同時代のダイナミックで発展し続ける社会へと進んでいくことでした。ボッチョーニ自身は1916年、第一次世界大戦の騎兵隊訓練中に落馬し、33歳の若さで亡くなっています。運動の理論と実作の両面を担った画家が残した時間は、驚くほど短いものでした。
未来派は、機械や速度、都市の喧騒といった二十世紀そのものを賛美した運動です。本作はまさにその思想を絵に翻訳したもので、道を行き交う人々や馬車は影のように頼りなげに描かれ、代わりに電車と光が画面を支配しています。過去の時代の乗り物である馬車が薄れ、機械文明が前面に出てくる。その交代劇が一枚のなかで起きています。
どこで見られる?
- 所蔵先:大阪中之島美術館
- 所在地:大阪府大阪市北区中之島4-3-1
- 展示状況・観覧料:同館のコレクションは会期を定めた展示で公開される形式のため、本作が常に展示されているとは限りません。観覧料は開催中の展覧会ごとに設定されます。開館時間は10時〜17時(入場は16時30分まで)、休館日は月曜日(祝日の場合は翌平日が休館)です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 三度描かれた路面電車:この絵で最も目を引くのが、ヘッドライトを点けた路面電車がコマ送りのように三回描かれている点です。写真の多重露光のように同じ電車を重ねることで、静止した画面のなかに時間の経過とスピードを閉じ込めています。動きを描くための、きわめて直接的な発明です。
- 青と紫が基調の夜の光:画面は青や紫を基調としながら、幾何学的な色面にこまかく分解されています。そこへ上方から人工光が降り注ぐ構成です。夜の街を照らすのが月ではなく街灯や電車のライトであるという事実そのものが、この時代の新しさでした。
- 影のような人々と馬車:路上の人々や馬車は輪郭がぼやけ、影のように頼りなく描かれています。人間より機械のほうが確かな存在として描かれている。未来派の思想を知ったうえで見ると、この扱いの差は挑発的ですらあります。
この絵が日本にある理由
大阪中之島美術館が開館したのは2022年2月2日ですが、この美術館の歴史はそれよりずっと長く続いてきました。公式サイトによれば、1990年に準備室が設置されてから開館まで、じつに30年もの年月が過ぎています。つまり本作をはじめとする所蔵品の多くは、まだ建物のない美術館のために、長い年月をかけて少しずつ集められてきたものなのです。
コレクションは2026年4月現在で約7,000点にのぼり、19世紀後半から現代までの日本と海外の美術を中心に、洋画、日本画、現代美術、版画、写真、彫刻、デザインまで幅広く含みます。佐伯祐三の名作やモディリアーニの裸婦像、具体美術協会の吉原治良の作品などと並んで、海外作家の代表作が国内外で高く評価されており、本作もそのひとつです。購入によって収蔵されました。建物より先にコレクションがあった美術館という成り立ちが、この一点の背景にはあります。
まとめ
《街路の力》は、機械と速度に熱狂した二十世紀初頭のヨーロッパの空気を、そのまま封じ込めたような作品です。三度描かれた路面電車という発明ひとつをとっても、当時の画家たちが何を新しいと感じていたかがよくわかります。大阪の中之島で、百年以上前の「未来」に会いに行ってみてください。


