葛飾応為:父・北斎が「自分よりうまい」と脱帽した、江戸の闇を光で照らした天才女絵師

葛飾応為:父・北斎が「自分よりうまい」と脱帽した、江戸の闇を光で照らした天才女絵師

画家

北斎の三女であり、父の助手として彼の名作の背景を手がけながら、独自の「吉原格子先之図」などの傑作を残したお栄(応為)。光と影の劇的なコントラストから「江戸のレンブラント」と呼ばれる女性絵師の一生。

はじめに:偉大な父の影から立ち上がる、日本の光と影のイノベーター

葛飾応為(生没年不詳。19世紀)は、葛飾北斎の三女であり、本名を「お栄(おえい)」と言います。彼女は天才・北斎の遺伝子を最も濃く受け継いだ絵師であり、父・北斎をして「美人画にかけては、お栄には敵わない。彼女の描く線は本物だ」と言わしめました。彼女の最大の特徴は、それまでの日本画には存在しなかった、ランタンや格子の隙間から漏れる「人工的な光と影の強烈な対比」にあります。その西洋のバロック絵画のようなドラマチックな表現から、現代では「江戸のレンブラント」と称賛され、世界的にも注目を浴びています。

生涯:出戻り助手から、北斎の最晩年を支えた狂信の絵の具師

お栄は一度、他の絵師と結婚しましたが、夫の絵のへたくそさを笑って離婚され、実家の北斎のもとへ戻ってきました。それ以降、北斎が90歳で亡くなるまで、ゴミ屋敷のようなアトリエで四六時中寝食を共にし、父の右腕として膨大な作品の背景や着彩、時には北斎名義の作品の大部分を手がけました。「応為」という画名は、彼女が北斎から「おーい、おーい」とアゴで呼ばれていたことから、ユーモアを交えて自ら名乗ったとされています。父の死後、彼女はふらりと家を出て失踪し、その後の消息は分かっていません。

3つの代表作解説

  • 吉原格子先之図(太田記念美術館): 応為の最高傑作。夜の吉原の格子戸の奥から漏れる激しいランタンの光が、格子先に集まる群衆の影とシルエットを美しく浮かび上がらせる、江戸の「光と影の劇場」。
  • 三曲合奏図(ボストン美術館): 琴、三味線、胡弓を奏でる3人の芸者たち。彼女たちの華やかな着物の柄の精密さ、そして楽器を引く指先のしなやかな動きは、父北斎を超える応為のデッサン力を示しています。
  • 夜桜美人図(メナード美術館): 闇夜に浮かび上がる満開の夜桜と、ランタンの灯りの下で手紙を読む美しい女性。青い着物に散りばめられた星のような絞り染めと、闇のコントラストが極めて幻想的。