大竹伸朗:貼って、重ねて、あふれ出す

画家

拾った紙片も看板もネオンも、すべて画面に貼りつけていく。大竹伸朗の作品は情報量の暴力です。直島には彼が手がけた本物の銭湯があり、服を脱いで作品の中に入ることができます。愛媛・宇和島を拠点に、40年以上ものを貼り続けてきた作家です。

大竹伸朗(1955-)は、絵画・コラージュ・立体・音楽と領域を選ばずに膨大な作品を生み出し続けている現代美術の作家です。街で拾った印刷物、看板、廃材、ネオン管――ありとあらゆるものを画面に貼り重ねる手法で知られています。

経歴

1955年、東京に生まれました。高校卒業後に北海道の牧場で働き、その後ロンドンに渡るなど、まっすぐな美大進学ルートを歩んでいません。武蔵野美術大学で油絵を学び、1980年代の初めから本格的に作品を発表し始めます。

大きな転機は1988年でした。この年、愛媛県宇和島市に拠点を移します。東京の美術シーンから距離を置き、港町の巨大なスタジオで、誰にも急かされずに作品を積み上げていく――この選択が、大竹の圧倒的な物量を生む土壌になりました。現在も宇和島を拠点に制作を続けています。

作風と手法

大竹の代名詞は「スクラップブック」です。旅先で拾ったチケット、包装紙、雑誌の切れ端、写真、伝票。それらを分厚いノートに貼り続け、一冊が数十キロに達することもあります。この積層の感覚が、そのまま絵画にも建築にも拡張されていきます。

彼の作品の前に立つと、まず情報量に圧倒されます。文字と色とテクスチャーが視界いっぱいに詰め込まれ、どこから見ればいいのか分からない。けれども見続けているうちに、猥雑さの中に妙な秩序が浮かび上がってきます。「良い趣味」の反対側から美をつかみ取ろうとする作家です。

主な作品

  • 直島銭湯「I♥湯」(2009年):香川県直島町宮浦港近く。作品でありながら本物の公衆浴場として営業しています。外壁も浴室のタイルも湯船の中も大竹のコラージュで埋め尽くされ、浴場の真ん中には象の立体が据えられています。
  • 《舌上夢/ボッコン覗》(2006年):直島・本村地区の家プロジェクト「はいしゃ」。かつて歯科医院兼住宅だった建物を丸ごと作品化し、内部には自由の女神像がそびえています。
  • 《女根/めこん》(2013年):香川県高松市の女木島。休校中の小学校の中庭に、ネオンと廃材と植物が渾然一体となった空間をつくり出しました。
  • 《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(2012年):ドクメンタ13で発表された、廃材を貼り重ねたスクラップ小屋の大型作品です。
  • 国際的な評価

    2010年の光州ビエンナーレ(韓国)、2012年のドクメンタ13(ドイツ・カッセル)、2013年の第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展と、現代美術の最重要の国際展に立て続けに参加しました。国内では2022年から2023年にかけて東京国立近代美術館で大規模個展が開かれ、初期から近作までを網羅する展示に長い行列ができました。

    日本で見られる場所

    直島銭湯「I♥湯」は、日本でもっとも変わった鑑賞体験ができる場所の一つです。入浴料を払って服を脱ぎ、湯に浸かって作品を見る。天井にも床にも壁にも大竹のイメージが貼り込まれていて、湯気の向こうにネオンが光ります。直島の宮浦港からすぐなので、フェリーの待ち時間にも立ち寄れます。

    家プロジェクト「はいしゃ」(直島町本村)は共通チケットで見学できます。狭い建物の中を巡ると、床から天井までびっしり作り込まれた密度に息が詰まるほどです。

    女木島(高松港からフェリー約20分)の《女根/めこん》は、瀬戸内国際芸術祭を機に生まれた常設作品です。開館期間が限られるので、事前に確認してから渡ってください。

    このほか東京都現代美術館などが大竹作品を所蔵しており、コレクション展で出会えることがあります。

    見どころ

    大竹伸朗は「整理しない」作家です。ふつうの美術は要素を絞ることで強さを出しますが、彼は逆に足し続ける。その結果生まれるのは、都市の路地裏や港の倉庫に似た、生々しい厚みです。直島の銭湯で湯に浸かりながら天井を見上げると、美術館の白い壁の中では絶対に成立しない種類の面白さが、そこにあることが分かります。