青木繁:28歳で極貧のなかに散った洋画の天才、日本の神話をロマンの色彩で描いた伝説

青木繁:28歳で極貧のなかに散った洋画の天才、日本の神話をロマンの色彩で描いた伝説

画家

「海の幸」や「わだつみのいろこの宮」で日本の洋画史に不滅の足跡を残した青木繁。アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)の誇る巨星。日本の古代神話を圧倒的なパッションとロマンあふれる油絵で描きながらも、夭折した悲劇の一生。

青木繁(1882-1911)は、明治期の日本を代表する洋画家です。日本の神話や古典を主題に、ロマン主義的な色彩と情熱で描き、28歳で世を去りました。

生涯:久留米の神童から、放浪の果ての早世へ

1882年7月13日、福岡県久留米に旧久留米藩士の家の長男として生まれました。1899年に上京し、小山正太郎の画塾・不同舎で学んだのち、翌1900年に東京美術学校西洋画科の選科に入学。黒田清輝や藤島武二の指導を受けます。在学中から神話や聖書に取材した習作を発表し、1903年には白馬会展でギリシャ神話や記紀神話に取材した一連の作品が白馬会賞を受け、注目を集めました。

1904年の夏、青木は同郷の友人・坂本繁二郎、森田恒友、そして恋人の福田たねとともに、房州布良(めら、現在の千葉県館山市)の漁村に滞在します。ここで大漁の話に触発されて描かれたのが《海の幸》で、同年の白馬会展で高い評価を得ました。

正しくは「東京勧業博覧会」(1907年3月20日-7月31日、上野公園ほか、東京府主催)。青木はここで三等賞末席にとどまった。同年、父の危篤により帰郷。以後、中央画壇への復帰を望みながら九州各地を放浪し、貧窮のうちに健康を損ないます。1911年3月25日、福岡市内の病院で肺結核により死去しました。満28歳でした。

画風の特徴

青木の油彩は、黒田清輝がもたらした外光派の明るい色調を出発点としながら、そこに濃密な物語性と装飾性を持ち込んだ点に特徴があります。褐色や深緑を基調とした重い画面に、赤や青を差し込んで象徴的な効果を生み、絵具を厚く盛るのではなく、下地を透かすように薄く重ねる箇所も多く見られます。主題は『古事記』や『日本書紀』、聖書、ギリシャ神話といった古典で、当時の日本の洋画が風景や人物の写生に向かっていたなかで、際立って文学的でした。細部を追わず、人体の輪郭を大きく捉えて画面全体のうねりをつくる構成力も持ち味です。

代表作

  • 海の幸(1904年・重要文化財・アーティゾン美術館、東京):巨大な鮫を担いで砂浜を進む裸の漁師たちを横一列に描いた作品。荒い筆致と未完成にも見える画面が、かえって力を生んでいます。
  • わだつみのいろこの宮(1907年・重要文化財・アーティゾン美術館):『古事記』の山幸彦と豊玉姫の出会いの場面。水中の宮殿の緑がかった光の中で、三人の人物が静かに向き合います。
  • 大穴牟知命(1905年・アーティゾン美術館):神話の大国主命が蘇生する場面を描いた作品です。
  • 東京藝術大学大学美術館蔵の《自画像》は1904年(卒業制作)。1903年の《自画像》はアーティゾン美術館蔵。
    • 《朝日》(1910年、青木の油彩の絶筆)は佐賀県立小城高等学校同窓会「黄城会」の所有で、佐賀県指定重要文化財。佐賀県立美術館に寄託・展示されている。

    同時代の画家との関係

    東京美術学校では黒田清輝と藤島武二に学びました。とりわけ藤島の装飾的で文学的な画風は、青木と響き合うところがあります。同郷・同学の坂本繁二郎は生涯の友であり、房州布良の旅にも同行しました。坂本は青木の死後、その画業の顕彰に努めています。恋人の福田たねも画家で、青木繁と福田たねの子・福田幸彦は、のちの尺八奏者・作曲家「福田蘭童」(1905-1976)。クレージーキャッツの石橋エータローの父。関根正二は青木より一世代あとの画家。青木の同世代(1882年前後生まれ)は坂本繁二郎、熊谷守一、萬鉄五郎ら。ロマン主義的系譜として並べること自体は成立するが「同世代」は誤り。

    日本で見られるか

    主要作品はすべて国内にあります。中心はアーティゾン美術館(東京・京橋、旧ブリヂストン美術館)で、《海の幸》《わだつみのいろこの宮》をはじめ石橋財団の青木繁コレクションを所蔵し、コレクション展でしばしば公開しています。故郷の久留米市美術館(福岡、石橋文化センター内)も青木の作品と資料を持ち、坂本繁二郎とあわせた企画展を重ねてきました。東京藝術大学大学美術館には在学期の自画像があります。

    見どころ

    《海の幸》の前では、まず絵の仕上がり方を見てください。人物の下半身や砂浜は下描きに近い状態で残されており、絵具が置かれていない部分もあります。それでも画面が成立しているのは、担がれた鮫の白い帯が横一直線に走り、行列全体を貫いているからです。次に漁師たちの顔を一人ずつ追ってみてください。一人だけこちらを見返している人物があり、そこで絵と鑑賞者の関係が変わります。《わだつみのいろこの宮》では、水中を想定した緑と青の光の層に注目を。人物の輪郭が背景に溶け込みかけている場所こそが、青木が神話に見ていた世界の質感です。

代表作ギャラリー

海の幸
海の幸1904年アーティゾン美術館
わだつみのいろこの宮
わだつみのいろこの宮1907年アーティゾン美術館
自画像
自画像1903年頃

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)