ヤノベケンジ:宇宙服を着た猫と、太陽を持つ子ども

ヤノベケンジ:宇宙服を着た猫と、太陽を持つ子ども

画家

万博跡地の「未来の廃墟」で遊んだ少年は、放射線を感知するスーツや火を吹く巨大ロボットを作る作家になりました。ヤノベケンジの作品は「生き延びること」がテーマ。大阪中之島美術館の《SHIP'S CAT (Muse)》など、関西の街なかで無料で会える作品が多いのも魅力です。

ヤノベケンジ(1965-)は、機械仕掛けの大型彫刻で知られる現代美術作家です。放射線を感知する黄色いスーツ、火を吹く巨大ロボット、宇宙服を着た猫。守り神のような像を、実際に動く「機械」として作り続けてきました。

経歴

1965年、大阪府茨木市に生まれました。京都市立芸術大学で彫刻を学び、在学中にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートへ交換留学。1991年に同大学院を修了しています。

創作の原点は、子どものころの遊び場だった大阪万博(1970年)の会場跡地です。取り壊されていくパビリオンを、本人は「未来の廃墟」と呼んでいます。1990年、隔離タンクの中で瞑想する体験型の作品《タンキング・マシーン》でデビューし、同年のキリンプラザ大阪コンテンポラリー・アワードで最優秀作品賞を受けました。

1994年から3年間はベルリンで活動。2008年からは京都芸術大学教授として、大型作品の工房「ウルトラファクトリー」のディレクターも務めています。

作風と手法

一貫したテーマは「現代社会におけるサヴァイヴァル(生き延びること)」です。1990年代から、実際に機能する大型の機械彫刻を作ってきました。放射線を感知するとランプが点灯する《アトムスーツ》を自ら着てチェルノブイリを訪れたプロジェクトは、その代表例です。

2000年代に入ると、腹話術人形の「トらやん」が作品の主役になり、作風は子どもに向けた物語性の強いものへ広がります。東日本大震災のあとは、防護服を着た子どもや、旅人を守る猫など、「守り神」としての立像を各地に据えるようになりました。見上げるほどの大きさなのに、どこか愛嬌のある顔をしているのがヤノベ作品の特徴です。

主な作品

  • 《タンキング・マシーン》(1990年):体温に近い塩水を満たしたタンクに入り、外界から隔離される体験型の作品。デビュー作です。
  • 《アトムスーツ》(1997年-):放射線を感知して光る黄色い防護服。1997年にはこれを着てチェルノブイリを訪れました。
  • 《ジャイアント・トらやん》(2005年):全長7.2メートルのロボット型の彫刻。子どもの命令にだけ従い、火を吹きます。
  • 《サン・チャイルド》(2011-2012年):高さ6.2メートルの子どもの立像。防護服姿ですが、胸の計測器は「000」を示し、右手に小さな太陽を、左手にヘルメットを持っています。震災からの再生への願いを込めた作品です。
  • 《SHIP'S CAT》シリーズ(2017年-):船乗り猫の伝承をもとにした、宇宙服姿の巨大な猫。旅人を導く守り神として各地に設置されています。

国際的な評価

2003年に国立国際美術館で個展「メガロマニア」を開催。2005年にはニューヨークのジャパン・ソサエティで開かれた展覧会「リトルボーイ」に参加しました。2017年にはパリのルーヴル美術館別館で《SHIP'S CAT》を発表し、同年、ポンピドゥー・センター・メスの日本現代美術展「JAPANORAMA」にも出品しています。2018年に福島市に設置された《サン・チャイルド》は、防護服姿が風評被害を招くという声を受けて約1か月で撤去が決まり、公共彫刻のあり方をめぐる議論を呼びました。

日本で見られる場所

ヤノベ作品の多くは、美術館の外や共用部に置かれ、無料で見ることができます。

代表格が大阪中之島美術館です。黒い直方体の建物の北側、入口へ向かう通路に、高さ3.5メートルの《SHIP'S CAT (Muse)》が立っています。オレンジ色の宇宙服を着た白い猫で、美術館の守り神として恒久展示されています。同じ館の4階の階段横には《ジャイアント・トらやん》も設置されています(企画展の会期によっては観覧券が必要です)。

兵庫県立美術館(神戸市)では、海側の大階段の下に《サン・シスター》が立っています。阪神・淡路大震災から20年の2015年に設置された高さ約6メートルの少女像で、公募で「なぎさ」の愛称がつきました。

故郷の茨木市では、阪急・大阪モノレールの南茨木駅前ロータリーに《サン・チャイルド》が2012年から恒久設置されています。また、大阪モノレール大阪空港駅には、幅約12メートルのステンドグラス《生命の旅》(2024年)があります。

このほか、宿泊施設「WeBase」の博多・鎌倉・京都の各館にも、姿の違う《SHIP'S CAT》が置かれています。

見どころ

まず、作品の「顔」を見てください。宇宙猫も、太陽を持つ子どもも、巨大なのに怖くありません。「未来の廃墟」で育った作家が、それでも生き延びるために作った像だからです。次に、細部を探してみましょう。《サン・チャイルド》の胸の計測器が示す「000」、《SHIP'S CAT》の首元のライト。小さな仕掛けの一つひとつに、作家のメッセージが込められています。