目[mé]:東京の空に「誰かの顔」を浮かべたアートチーム

目[mé]:東京の空に「誰かの顔」を浮かべたアートチーム

画家

2021年、代々木公園の上空にビル6〜7階分の巨大な顔が浮かびました。現代アートチーム・目[mé]の《まさゆめ》です。アーティスト・ディレクター・インストーラーの3人が中心となり、鏡の水面や時計の群れで「現実の不確かさ」を体験させる作品を、芸術祭や美術館で発表し続けています。

目[mé](2013-)は、アーティストの荒神明香、ディレクターの南川憲二、インストーラーの増井宏文を中心とする現代アートチームです。絵や彫刻といったジャンルにこだわらず、展示空間と観客の動きまで含めた「状況」を作品にします。2021年に東京の空へ実在の人物の顔を浮かべた《まさゆめ》で、広く知られるようになりました。

経歴

荒神明香は1983年広島生まれ、南川憲二は1979年大阪生まれで、ともに2009年に東京藝術大学大学院を修了しています。南川と増井宏文は、表現活動集団「wah document」として活動していました。そこに荒神が加わり、チームとしての活動を2013年に始めます。

最初の大きな舞台は、2013年の瀬戸内国際芸術祭でした。小豆島・土庄の入り組んだ路地に《迷路のまち〜変幻自在の路地空間〜》を発表します。2014年には資生堂ギャラリーで「たよりない現実、この世界の在りか」を開催。2017年には第28回タカシマヤ美術賞を受けています。2019年、千葉市美術館での大規模個展「非常にはっきりとわからない」で、美術館の建物全体を一つの作品に変えました。

作風と手法

目[mé]の作品は、どれも「見ているものが、ほんとうにそれなのか」を疑わせます。たとえば《Elemental Detection》では、観客は靴を脱いで鏡のような水面に降り立ちます。空も木も自分の姿も反転して足元に広がり、上下の感覚が揺らぎます。

制作の進め方も独特です。荒神が作品のイメージを持ち、南川が観客の導線や体験を設計し、増井が実際の空間に立ち上げる。三人の役割をはっきり分けたチーム・クリエーションによって、個人の作家では実現しにくい大きなスケールの作品を可能にしています。

主な作品

  • 《迷路のまち〜変幻自在の路地空間〜》(2013年-):小豆島・土庄の路地に立つ建物の内部を、洞窟のように作り変えた作品です。瀬戸内国際芸術祭2016でも新たな形で発表されました。
  • 《おじさんの顔が空に浮かぶ日》(2014年):宇都宮美術館の館外プロジェクトとして、市民の顔を空に浮かべた作品。《まさゆめ》の原点です。
  • 《Elemental Detection》(2016年):さいたまトリエンナーレ2016で発表。鏡の水面に降り立つ体験型のインスタレーションです。
  • 《まさゆめ》(2019-2021年):Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13として実施。1,000名以上の公募から選ばれた一人の顔を、2021年7月16日に代々木、8月13日に隅田川周辺の空に浮かべました。
  • 《movements》(2021年):無数の小さな時計を、ムクドリの群れのように配置したインスタレーションです。

国際的な評価

《まさゆめ》は2023年にポルトガル・リスボン、2024年にスペイン・マドリードでも実施され、海外でも「顔」が空に浮かびました。2023年からは、オランダのファッションデザイナー、アイリス・ヴァン・ヘルペンの展覧会「Sculpting the Senses」に作品《景体》が出品され、パリ装飾美術館、ブリスベンのクイーンズランド州立美術館、シンガポールのアートサイエンス・ミュージアムを巡回しています。国内では2019年の「六本木クロッシング」(森美術館)やVOCA展にも参加しました。

日本で見られる場所

青森県十和田市では、十和田市現代美術館のまちなか常設作品として《space》が公開されています。美術館の近くに立つ2階建ての空き家に、ガラス張りの白い展示室が埋め込まれたような作品で、建物そのものが彫刻になっています。spaceで展覧会を開催していない期間は屋外から眺める形になり(無料)、中に入れるのはspaceを会場にした展覧会の会期中に限られます。

新潟県十日町市の越後妻有里山現代美術館 MonETには、《movements》が常設されています。祝日を除く火曜・水曜は休館です。時計の群れが、見る位置によって意味を持ったり失ったりする様子を、じっくり眺めてください。

小豆島の《迷路のまち〜変幻自在の路地空間〜》は、瀬戸内国際芸術祭の会期外も5月から11月の毎月第2土日に公開されています(2026年度からの定期公開。鑑賞料は1作品500円、小豆島共通チケットは1,000円)。訪ねる前に公式サイトで日程を確かめてください。

《まさゆめ》のように空に浮かぶ作品や、《Elemental Detection》のような大型作品は、企画展や芸術祭の機会に限られます。

見どころ

目[mé]の作品は、写真で見るのと自分の体で入るのとでは、まるで別物です。《space》では、古い建物の2階に白いガラス張りの展示室がはまり込んだ違和感を、まず通りから眺めてください。中に入れるのは展覧会の会期中だけです。《movements》では、一つの時計を見つめてから、少し離れて群れ全体を見る。その往復のなかで、「意味」がふっと消える瞬間に出会えます。