ジェームズ・タレル:光そのものを素材にする作家
光を素材にする、という言い方がこれほど文字どおり当てはまる作家もいません。タレルは空間に満ちた光と、それを受け取る人の知覚を作品にしてきました。直島の南寺、地中美術館、金沢21世紀美術館、新潟の光の館と、日本には体験できる場所がそろっています。
ジェームズ・タレル(1943-)は、光そのものを素材とするアメリカの現代美術作家です。絵具でも石でもなく、空間に満たされた光と、それを受け取る人間の知覚こそが作品の実体だと考えてきました。
経歴
1943年、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれました。家庭はクエーカー教徒で、静かに座って内なる光を待つという礼拝のかたちが、のちの作品に通じていると指摘されることがあります。ポモナ・カレッジで知覚心理学を学び、その後クレアモントの大学院で美術を修めました。十代で飛行機の操縦免許を取っており、空を見上げる経験は生涯の主題になります。
1966年、サンタモニカの旧メンドータ・ホテルを借りてスタジオとし、窓をふさいだ室内にプロジェクターの光を投げる実験を始めました。部屋の隅に光の立方体が浮かんでいるように見える初期作は、光が物体のように見えてしまう瞬間を扱ったものです。
1970年代にはアリゾナ州の砂漠にある死火山ローデン・クレーターを手に入れます。火口をまるごと巨大な天体観測装置のような作品に変える計画で、半世紀を超えたいまも制作が続いています。
作風と手法
タレルの作品は写真では伝わりません。壁に四角い色面が掛かっているように見えたものが、近づくと開口部の向こうの空間だったと気づく。天井に切られた四角い穴の縁がくっきりと際立ち、空が板のように平らに見えてくる。こうした「見誤り」を通じて、私たちが世界をどう見ているのかを本人に気づかせるのが狙いです。
そのため作品には、時間と身体が必要です。暗い部屋に入って十分ほど座り、目が慣れてはじめて何かが見えてくる作品も少なくありません。急いで通り過ぎる人には、何も起きません。
代表作
- バックサイド・オブ・ザ・ムーン(1999年)ー 香川県・直島の家プロジェクト「南寺」の内部に常設。真っ暗な堂内を手探りで進み、座って待つ作品です。
- オープン・スカイ(2004年)ー 直島の地中美術館。天井を四角く切り抜き、空だけを見せます。同館にはほかに《アフラム、ペール・ブルー》《オープン・フィールド》も常設されています。
- ブルー・プラネット・スカイ(2004年)ー 金沢21世紀美術館の恒久展示作品。「タレルの部屋」として親しまれています。
- 光の館(2000年)ー 新潟県十日町市上野(川西エリア)。屋根がスライドして開く和室で、宿泊もできる作品です。
- ローデン・クレーター(1970年代からー)ー アリゾナ州の死火山を用いた進行中の大作。
国際的な評価
1984年にマッカーサー・フェローシップを受けています。2013年にはニューヨークのグッゲンハイム美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ヒューストン美術館で大規模な回顧展がほぼ同時期に開かれ、光を扱う作家としての位置を決定づけました。
日本で見られる場所
タレルは日本にとりわけ多くの恒久作品を残した海外作家のひとりです。直島の南寺と地中美術館、金沢21世紀美術館の「タレルの部屋」、新潟県十日町市上野の光の館。この四か所はいずれも常設で、予約や開館時間の確認は必要ですが、いつでも体験できます。
とくに光の館は宿泊施設を兼ねており、日没から夜にかけて空の色が刻々と変わっていく数十分を、寝転がって眺めることができます。作品の中で一晩過ごせるという意味で、世界的にも珍しい場所です。
見どころ
どの作品でも、まず座ってください。そして、目が慣れるまで待つこと。暗さに順応した目には、最初は何もなかった空間に、青やピンクの淡い面がゆっくりと立ち上がってきます。何が見えたかより、見えてくるまでの自分の目の変化のほうが、じつは作品の本体です。