ブルース・ナウマン:言葉とネオンで人を追い詰める
決まった様式を持たず、ネオン、映像、音、彫刻を横断してきた作家です。直島のベネッセハウス ミュージアムには、生と死を組み合わせた100の言葉が明滅する《100生きて死ね》が常設され、夜まで鑑賞できます。
ブルース・ナウマン(1941-)は、ネオン管、映像、音、身体、彫刻を自在に行き来するアメリカの現代美術作家です。「これがナウマンの作風だ」と一言で言える様式を持たないこと自体が、この作家の特徴になっています。
経歴
1941年、アメリカ・インディアナ州フォートウェインに生まれました。ウィスコンシン大学マディソン校では最初に数学と物理学を学び、途中で美術に移ります。その後カリフォルニア大学デイヴィス校の大学院で学び、1966年に修了しました。
卒業直後、サンフランシスコ近郊の空き店舗をスタジオにします。仕事の依頼も展覧会の予定もない状態で、彼は「アーティストがスタジオでしていることは何でも芸術になるはずだ」と考えました。壁に沿って歩く、床に座る、跳ねる。そうした行為を撮影した映像作品が、初期の中心です。
作風と手法
ナウマンの作品は、しばしば観客を居心地悪くさせます。極端に狭い通路を歩かされ、その先のモニターには自分の後ろ姿が映っている。大音量で同じ言葉が繰り返される部屋に閉じ込められる。心地よさとは反対の方向へ、意図的に押し出されるのです。
言葉の扱いも独特です。単語を並べ替え、意味が反転したり無効になったりする様子を、ネオン管の明滅として提示します。言語がどこで意味を失うかを、装置として見せているとも言えます。
代表作
- 真の芸術家は神秘的な真実を明かして世界を助ける(1967年)ー 螺旋状に配置されたネオン管の初期代表作。
- ライヴ・テープド・ヴィデオ・コリドー(1970年)ー 幅の狭い通路とモニターを使い、観客を実験対象のような立場に置く作品。
- アンソロ/ソシオ(1991年)ー 正面を向いた頭部の映像が正立・倒立で並び、叫び続ける音とともに空間を満たします。(回転する頭部の版は1992年)
- ロー・マテリアルズ(2004年)ー ロンドンのテート・モダン、タービンホールで音声だけを使った大規模作品。
- 100生きて死ね(1984年)ー 香川県直島のベネッセハウス ミュージアムに常設されています。
国際的な評価
1999年のヴェネチア・ビエンナーレで功績に対する金獅子賞を受け、2009年には同ビエンナーレのアメリカ館での展示が国別参加部門の金獅子賞に選ばれました。2004年には日本の高松宮殿下記念世界文化賞(彫刻部門)を受賞しています。2018年にはニューヨーク近代美術館などで大規模な回顧展が開かれ、戦後アメリカ美術で最も影響力の大きい作家の一人と位置づけられています。
日本で見られる場所
常設で見られるのは香川県直島のベネッセハウス ミュージアムにある《100生きて死ね》です。安藤忠雄が設計した館の地下階、暗い展示室に置かれた高さ3メートルほどのネオンの壁で、「LIVE AND DIE」「PLAY AND DIE」「TOUCH AND LIVE」といった100通りの言葉の組み合わせが一つずつ点灯していきます。最後にすべてが同時に光り、また最初に戻ります。
この作品はベネッセハウス ミュージアムの目玉のひとつで、宿泊者は夜間も鑑賞できる時間帯が設けられてきました。ネオンの作品であるため、暗い時間帯のほうが色の強さが際立ちます。
これ以外に国内でナウマンの常設作品は多くありませんが、国内主要館が版画や映像作品を収蔵しており、企画展で紹介されることがあります。
見どころ
《100生きて死ね》の前では、点灯していく言葉を一つずつ読んでみてください。動詞が「生きろ」と「死ね」に交互に結びつき、意味が積み上がる前に次へ流れていきます。読もうとすればするほど追いつかない。その追いつかなさが、ナウマンが仕掛けている体験そのものです。