スゥ・ドーホー:家を布で作り、持ち歩く作家

画家

住んでいた家を、間取りごと半透明の布で縫って再現する。スゥ・ドーホーは移動と記憶を主題にした韓国出身の作家です。青森の十和田市現代美術館には、無数の小さな人型が支え合う《コーズ・アンド・エフェクト》が常設されています。

スゥ・ドーホー(1962-)は、家や身のまわりの空間を布で縫い上げる韓国出身の現代美術作家です。国から国へ移り住んできた自分の経験を出発点に、「家とは何か」「個人と集団はどう関わるのか」を問い続けてきました。

経歴

1962年、韓国のソウルに生まれました。父は韓国を代表する水墨画家で、伝統的な韓屋で育っています。ソウル大学校で東洋画を学んだのち、兵役を経てアメリカへ渡りました。ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで絵画を、イェール大学大学院で彫刻を修めています。

ソウル、ニューヨーク、ロンドンと拠点を変えながら制作を続けてきました。作品の主題である「移動」は、そのまま本人の人生です。かつて住んだ部屋の寸法を測り、扉の取っ手やコンセントの一つひとつまで布で縫い直すという方法は、住居を持ち運ぶための実験のように見えます。

作風と手法

代表的な手法は、薄い色のポリエステルの布を使った実物大の建築の再現です。半透明なので、内部にいても外が透けて見え、重なった向こう側の部屋まで見通せます。堅牢であるはずの建築が、風で揺れる幕になってしまう。この頼りなさが、そのまま移民の感覚に重なります。

もうひとつの系統が、小さな人型を無数に集めて大きな構造を作る作品です。床を支える人、柱を形づくる人。個人が集まってはじめて社会という構造が立つ、という主題が繰り返し扱われます。

代表作

  • サム/ワン(2001年)ー 無数の軍隊の認識票をつないで作った巨大なローブ。ヴェネチア・ビエンナーレの韓国館で発表されました。
  • フロア(1997-2000年)ー ガラスの床を、下から無数の小さな人型が手を挙げて支えている作品。
  • ホーム・ウィズイン・ホーム(2013年ー)ー ソウルの韓屋とアメリカの下宿を入れ子にした布の作品。韓国国立現代美術館などで展示されました。
  • ステアケース(2000年代ー)ー 赤い布で作られた階段。ロンドンのテートなどが所蔵しています。
  • コーズ・アンド・エフェクト(2008年)ー 青森県の十和田市現代美術館に常設。

国際的な評価

2001年のヴェネチア・ビエンナーレで韓国館の代表を務めました。ロンドンのテート・モダン、ニューヨークのホイットニー美術館、ソウルの韓国国立現代美術館など、主要な美術館で個展や大規模な展示が続いています。布の建築という手法は、この四半世紀の現代美術で最も広く知られた方法のひとつになりました。

日本で見られる場所

常設で見られるのは青森県の十和田市現代美術館です。《コーズ・アンド・エフェクト》は、色とりどりの小さな人型が肩の上に立ち、その上にまた人が立ち、という積み重なりで巨大な柱状のかたちを作り、天井から床へと降りてくるように吊られています。下から見上げると、シャンデリアのようにも、逆さの竜巻のようにも見えます。

同館では2018年に開館10周年記念として「スゥ・ドーホー:Passage/s パサージュ」という大規模な個展も開かれており、日本におけるこの作家の中心的な場所になっています。十和田では、ロン・ミュエクや草間彌生ら他の作家の常設作品と合わせて回れるのも利点です。

これ以外に国内の常設作品は多くないため、まずは十和田を目指すのが確実です。

見どころ

《コーズ・アンド・エフェクト》は、離れて全体の形を見てから、必ず近づいてください。一体一体の人型は指ほどの大きさですが、腕を挙げて上の人を支える姿勢がきちんと作り込まれています。全体の壮大さが、この小さな一人ひとりの負担で成り立っている。タイトルの「原因と結果」は、そういう意味に読めます。