ポール・ゴーギャン:文明を捨ててタヒチへ、原始の野生と神秘を描いたポスト印象派の野生児
ゴッホとの共同生活「黄色い家」での決裂後、文明社会を嫌って南太平洋の島タヒチへ渡ったゴーギャン。楽園の光と、ポリネシアの信仰や生の謎を、強烈な平塗りの色彩で描き出したドラマチックな一生。
はじめに:文明のフェイクを拒絶し、南洋の楽園に「原初の真実」を求めた男
ポール・ゴーギャン(1848-1903)は、ゴッホ、セザンヌと並ぶポスト印象派の巨匠です。彼は現実の光を再現する印象派のやり方に限界を感じ、色彩を「自分の感情や神秘的な精神世界を表現する手段」として使いました。彼の画風は、陰影を排した大胆な平塗りと、はっきりとした輪郭線(クロワゾニスム)、そしてタヒチの原始的でエキゾチックなモチーフが融合した、極めて神秘的で象徴的なものです。
生涯:株式仲買人から画家への転身、ゴッホとの激突、そして南の島へ
ゴーギャンは当初、パリで大金を稼ぐ株式仲買人であり、5人の子供を持つエリート市民でした。しかし絵画への情熱が抑えきれず、30代半ばで仕事を辞め、家族とも別居して画業に専念。困窮のなか、アルルでゴッホと共同生活を始めましたが、芸術観の違いから激しく対立し、ゴッホの「耳切り事件」を引き起こして決裂しました。その後、ヨーロッパの近代文明を「病んでいる」と嫌悪したゴーギャンは、タヒチ島、そしてさらに奥地のマルキーズ諸島へと移住し、貧困と病に苦しみながらも、野生の生命力に満ちた傑作群を描き続けました。
3つの代表作解説
- 我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか(ボストン美術館): ゴーギャンが人生の絶望の中で、自身の芸術的遺言として描いた巨大な最高傑作。右側の赤ん坊(生)から、中央の果実を摘む若者、左側の老女(死)まで、人間の生と神秘のサイクルがタヒチの青い闇の中に描かれています。
- タヒチの女たち(オルセー美術館): タヒチの海岸で静かに座る二人の女性。彼女たちの無表情でエキゾチックな表情と、鮮やかなパレオの模様、どっしりとした肉体表現が、楽園の憂鬱を感じさせます。
- 説教のあとの幻影(スコットランド国立美術館): ゴーギャンがタヒチに渡る前、ブルターニュ地方で描いた初期の出世作。格闘する天使の背景を「真っ赤」に塗りつぶすという、現実のルールを無視した主観的色彩表現の先駆け。
