メデューズ号の筏:実際の海難事故を歴史画にしたロマン主義の記念碑

メデューズ号の筏:実際の海難事故を歴史画にしたロマン主義の記念碑

名画
作者
テオドール・ジェリコー
制作年
1819年
所蔵
ルーヴル美術館
所在地
フランス・パリ

テオドール・ジェリコーが1818〜19年に描いた縦4.91メートル、横7.16メートルの大作。1816年に実際に起きたメデューズ号の遭難を主題にし、同時代の事件を歴史画の規模で描きました。ルーヴル美術館ドゥノン翼700番展示室で見られます。

《メデューズ号の筏》は、テオドール・ジェリコーが1818年から1819年にかけて描いた、縦4.91メートル、横7.16メートルの大作です。神話でも聖書でもなく、1816年に実際に起きたフリゲート艦メデューズ号の遭難という同時代の事件を、歴史画の規模で描き切った点で、フランス・ロマン主義の出発点とされています。現在はルーヴル美術館ドゥノン翼、ロマン主義の展示室で見ることができます。

《メデューズ号の筏》とは

原題はLe Radeau de la Méduse。制作年は1818年から1819年、技法は油彩・カンヴァス、寸法は縦4.91メートル、横7.16メートル、所蔵番号はINV 4884(C 51)です。セネガルのサン=ルイへ向かっていたフリゲート艦メデューズ号は、約400人を乗せたまま1816年7月2日、アルガン礁の浅瀬に乗り上げました。船を浮かべ直せないと分かると、乗員は船体の残骸を組んで急ごしらえの筏を作り、およそ150人がそこへ移されます。救命艇が筏を曳航する手はずでしたが綱は断ち切られ、筏だけが外洋に取り残されました。照りつける太陽の下で12日間漂流したのち発見されたとき、生存者はわずか15人でした。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ルーヴル美術館 絵画部門
  • 都市:フランス・パリ
  • 展示室:ドゥノン翼 1階(Level 1、日本式の数え方では2階)700番展示室「モリアン室」(ロマン主義)
  • 予約の要否:予約は必須ではありませんが、公式サイトでの時間指定オンライン予約が推奨されています。火曜日は休館です。

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 二つの三角形が支える構図:画面は、手前の亡骸から奥へ折り重なっていく人体の山と、傾いた帆柱とロープが作るもう一つの三角形とで組み立てられています。画面の左端では力尽きた老人が息子の亡骸を膝に抱え、右へ進むほど身体は起き上がり、最後は立ち上がって腕を伸ばす人物に行き着きます。見る人の視線は、絶望の底から布を振る男の手へと一気に引き上げられます。
  • 頂点に置かれた黒人の男性:山の頂上で布を振り、水平線に現れた船へ合図を送っているのは、筏に乗り合わせた黒人の男性です。奴隷貿易がまだ続いていた時代に、救いを呼び込む役割をこの人物に与えたことは、当時としてはきわめて異例でした。
  • 取材から生まれた生々しさ:ジェリコーは生存者である技師コレアールと外科医サヴィニーに会って証言を集め、大工の協力で筏の模型を作り、病院の遺体安置所に通って死体や瀕死の人の肌の色を観察しました。緑がかった皮膚や硬直した手足には、その観察の成果がそのまま出ています。

描かれた背景

ジェリコーはパリのフォブール=デュ=ルール通りに借りたアトリエでこの巨大な画面に取り組み、1819年7月にはイタリア座のホワイエへ場所を移して仕上げました。同年のサロンには《難破の光景》という一般的な題で出品され、8月から11月までサロン・カレに掲げられます。事件そのものが王政復古期の海軍人事への批判を含んでいたため、題名はぼかされましたが、観客には何が描かれているか一目で伝わりました。ジェリコーが選んだのは、救助の場面でも遭難の瞬間でもありません。水平線の彼方にアルギュス号を見つけ、まだ気づかれていないかもしれないという、希望と絶望が同じ重さで釣り合った一瞬です。救助船は画面右奥に、目を凝らさなければ分からないほど小さく描かれています。作品は画家の生前に売れることはなく、1824年1月26日にジェリコーが32歳で世を去ったあと、王立美術館長オーギュスト・ド・フォルバンの手配で同年11月2日の競売にかけられ、6005フランで王室が買い上げます。ルーヴルは1826年から途切れることなくこの絵を展示し続けています。

まとめ

《メデューズ号の筏》は、身近な事件を巨大な画面に引き上げることで、絵画が社会に切り込む道を開いた作品です。実物の前に立つと、5メートル近い画面の下端が床すれすれにあり、自分もこの筏に乗っているかのような感覚に襲われます。ドゥノン翼700番展示室では、隣の702番展示室にあるダヴィッドやアングルの端正な画面との違いも味わえます。同じ700番展示室にはドラクロワの《民衆を導く自由の女神》も掛かっており、ロマン主義がどこから始まり、どこへ向かったのかを一続きで追える配置になっています。