聖マタイの召命:教会で見る、光がすべてを決める一枚
- 作者
- ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
- 制作年
- 1599-1600年
- 所蔵
- サン・ルイージ・デイ・フランチェージ聖堂 コンタレッリ礼拝堂
- 所在地
- イタリア・ローマ
カラヴァッジョの出世作にして、光の劇的な使い方を決定づけた一枚です。美術館ではなくローマの現役の教会コンタレッリ礼拝堂にあり、入場は無料。コイン式の照明で数分だけ絵が照らされるという、独特の見学体験が待っています。
薄暗い部屋に差し込む一条の光。カラヴァッジョの《聖マタイの召命》は、収税所にいた男がキリストに呼ばれる瞬間を、劇的な明暗で捉えた油彩画です。この作品は美術館ではなく、ローマの現役の教会サン・ルイージ・デイ・フランチェージ聖堂のコンタレッリ礼拝堂に、描かれた当時の場所のまま掛かっています。
《聖マタイの召命》とは
原題はVocazione di San Matteo。1599年から1600年にかけて制作された油彩・カンヴァスで、寸法は322×340センチと、ほぼ正方形の大画面です。契約は1599年7月、最終的な支払いは1600年7月に行われました。カラヴァッジョにとって最初の大規模な公共の注文であり、その名を一躍高めた作品でもあります。
主題は『マタイによる福音書』9章9節。収税所に座っていたマタイに、キリストが従うよう声をかける場面です。カラヴァッジョはこれを聖書の時代の風景としてではなく、同時代の衣装をまとった男たちがたむろする薄暗い部屋として描きました。
どこで見られる?
- 所蔵先:サン・ルイージ・デイ・フランチェージ聖堂(在ローマ・フランス人の国民教会)のコンタレッリ礼拝堂。祭壇に向かって左の壁にあります
- 都市:イタリア・ローマ(ナヴォーナ広場とパンテオンの中間)
- 展示室:礼拝堂は身廊の奥、左側の最後の礼拝堂です。同じ空間に《聖マタイの殉教》(右壁)と《聖マタイと天使》(祭壇画)が並び、三部作をまとめて見られます
- 予約の要否:教会なので入場は無料、予約も不要です。ただし礼拝が優先されるため、ミサや行事の最中は見学できません
- 拝観時間の目安:月曜から金曜は9時30分から12時45分と14時30分から18時15分、土曜は9時30分から12時と14時30分から18時30分、日曜は12時から12時45分と14時30分から18時30分。毎月第1水曜の午前は閉堂します
- 照明:礼拝堂にはコイン式の照明装置があり、硬貨を入れると数分間だけ絵が照らされます。0.5ユーロか1ユーロの硬貨を用意していくと安心です
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 光そのものが主役:画面の右上から斜めに走る光が、暗い室内にいる人物の顔と手だけを切り取ります。実際の礼拝堂でも右手側に窓があり、絵のなかの光と建物の光がつながって感じられるよう計算されています
- キリストの手:呼びかけるキリストの手は、ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いた《アダムの創造》のアダムの手を踏まえた形です。肉体の創造に対して、魂の創造を示す引用と読まれています
- どれがマタイなのか:自分を指さすひげの男がマタイだとする伝統的な見方と、うつむいて金を数える若者こそマタイだとする説があり、いまも決着していません。実物の前で自分なりに探す楽しみがあります
描かれた背景
この礼拝堂は、フランス出身の枢機卿マチュー・コワントレル(イタリア語名マッテオ・コンタレッリ)が、自らの守護聖人である聖マタイを讃えるために資金を遺したものです。装飾は長く進まず、最終的に絵画部分が当時まだ若かったカラヴァッジョに委ねられました。
暗い背景から人物が浮かび上がる強烈な明暗法は、当時のローマの画家たちに衝撃を与え、カラヴァジェスキと呼ばれる追随者を各地に生みます。理想化されない庶民の顔や汚れた足を宗教画に持ち込む姿勢は批判も招きましたが、その生々しさこそがバロック絵画の出発点になりました。
礼拝堂の三点は同時に描かれたわけではありません。左右の壁の《召命》と《殉教》が1599年から1600年にかけて手がけられ、祭壇画の《聖マタイと天使》はそのあとに制作されます。祭壇画には最初の版があり、聖人の描き方が写実的すぎるとして受け入れられず、描き直された経緯が伝わっています。退けられた最初の版はベルリンに渡りましたが、第二次世界大戦中に失われました。
まとめ
《聖マタイの召命》は、美術館のガラス越しにではなく、注文された当の礼拝堂で見られる稀有な傑作です。入場は無料ですが、そこは今も祈りの場であり、静粛が求められます。コイン式の照明が灯る数分間に集中して、400年前に計算された光の演出を体感してみてください。