サン=ベルナール峠を越えるボナパルト:英雄ナポレオンの原型をつくった構図

サン=ベルナール峠を越えるボナパルト:英雄ナポレオンの原型をつくった構図

名画
作者
ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房
制作年
1805年
所蔵
東京富士美術館
所在地
東京都八王子市

白馬にまたがり腕を掲げるナポレオン。英雄像を決定づけたダヴィッドの有名な構図の作例を、東京富士美術館が所蔵しています。1805年のダヴィッド工房作で、縦73.5センチの小ぶりな画面。巡回展で各地を旅することもある一枚です。同館は館内整備のため2026年10月2日まで休館しています。

白馬に乗り、アルプスの岩場で腕を高く掲げるナポレオン。誰もが一度は目にしたことのあるこの構図の作例が、東京都八王子市の東京富士美術館にあります。ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房が1805年に手がけた《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》です。

《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》とは

1805年に描かれた油彩・カンヴァス作品で、寸法は縦73.5センチ、横59.0センチ。東京富士美術館の収蔵番号は03547です。作者は「ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房」と記録されています。

主題は、1800年の第2次イタリア遠征です。ナポレオンはアルプスの要衝サン=ベルナール峠を越えて進軍し、勝利を収めました。ダヴィッドが描いた数あるナポレオンの肖像画のなかでも、英雄としてのナポレオンの視覚的イメージがもっとも強く表現された作品とされています。

原作はフランスのマルメゾン博物館にあり、大型のヴァージョンがヴェルサイユ(フランス)、シャルロッテンブルク(ドイツ)、ベルヴェデーレ(オーストリア)などヨーロッパの主要な宮殿に伝えられています。東京富士美術館の一点は、それらより小ぶりな画面にまとめられた作例です。

ジャック=ルイ・ダヴィッドは新古典主義を代表するフランスの画家で、フランス革命期からナポレオン時代にかけて、時代の顔となる歴史画を次々に手がけました。この構図もそのひとつで、政治的な宣伝としての役割を強く担っています。現在も教科書や映画、広告のなかで引用され続けており、ナポレオンと聞いて多くの人が思い浮かべる姿は、ほぼこの一点に由来しています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:東京富士美術館(東京都八王子市谷野町492-1)
  • 所在地:JR八王子駅・京王八王子駅からバス。開館時間は10時から17時(受付は16時30分まで)、月曜休館(祝日の場合は開館し翌火曜が休館)です。なお同館は館内整備のため2026年6月22日から10月2日まで全館休館し、10月3日に再開します。
  • 展示状況・観覧料:新潟県立近代美術館「西洋絵画400年の旅―珠玉の東京富士美術館コレクション」は2026年6月27日~8月23日で終了。東京富士美術館は2026年6月22日~10月2日まで館内整備で全館休館し、10月3日に「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」(常設展示)などで再開する。観覧料は大人1,500円(オンライン・割引1,200円)、大学高校生900円、中学小学生500円で、常設展だけのチケットはなく、1枚で開催中の展示をすべて観覧できます。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 掲げられた右腕:進むべき方向を指し示す腕と、翻るマント。実際には天候も装備も過酷だったはずの峠越えが、理想化された勝利の場面に変換されています。
  • 暴れ馬という演出:ナポレオンは英雄像の演出として、荒々しい馬にまたがる姿で描かれることを望んだと伝えられます。事実の記録ではなく、政治的な図像としての肖像画です。
  • 工房作という見方:工房作とは単なる複製ではなく、ダヴィッドが主宰する工房で、彼が何らかのかたちで関与しながら制作された作品を指します。師と弟子が分担して描く当時の制作体制を知る手がかりになります。

この絵が日本にある理由

東京富士美術館は1983年に八王子市に開館した美術館で、日本・東洋・西洋の美術を幅広く収集してきました。とくに西洋絵画はルネサンスから20世紀までを通覧できる構成になっており、常設展示室では約100点の名品が公開されています。本作もそうした西洋絵画コレクションの一角を占める作品として収蔵されました。

同館の西洋絵画コレクションは、国内各地の美術館へ貸し出される巡回展としても知られています。「西洋絵画400年の旅」と題した展覧会は各地で繰り返し開かれており、本作もそのなかで日本各地を旅してきました。八王子の館内で見られない時期があるのは、そのためです。訪問前に所在を確認しておくと確実です。

まとめ

《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》は、事実の記録ではなく英雄像をつくり出すために描かれた絵です。その構図はいまも教科書や広告に引用され続けています。原作はフランスにありますが、同じ構図の作例が東京都内で見られることの意味は小さくありません。巡回展で近くの美術館にやって来る可能性もあるので、展示情報をこまめにチェックしてみてください。