ゴーギャン《かぐわしき大地》:花に手をのばす、タヒチのイヴ

ゴーギャン《かぐわしき大地》:花に手をのばす、タヒチのイヴ

名画
作者
ポール・ゴーギャン
制作年
1892年
所蔵
大原美術館
所在地
岡山県倉敷市

ゴーギャンが最初のタヒチ滞在中に描いた1892年の代表作。大きな花に手をのばす女性と、顔の脇に浮かぶ翼のあるトカゲが、楽園と誘惑の物語を語ります。児島虎次郎が三度目の渡欧で購入し、大原美術館本館第1室で公開されています。

《かぐわしき大地》は、ゴーギャンが最初のタヒチ滞在中に描いた代表作のひとつです。大きな花に手をのばす女性と、その顔の脇に浮かぶ翼のあるトカゲが、楽園をめぐる物語を静かに語りかけます。大原美術館の本館で公開されています。

《かぐわしき大地》とは

ポール・ゴーギャンは、株式仲買人の職を捨てて画家となり、1891年に初めてタヒチへ渡ったフランスの画家です。《かぐわしき大地》はその翌1892年の作で、油彩・カンヴァス、91.3×72.1センチメートルの縦長の画面です。タヒチ語の原題《テ・ナヴェ・ナヴェ・フェヌア》は「かぐわしき大地」「喜ばしき大地」といった意味をもち、ゴーギャンが構想していた著作『ノア・ノア』と結びつく言葉として知られています。

画面の中央には裸の若い女性が立ち、右手を伸ばして大きな花に触れようとしています。足もとには孔雀の羽根を思わせる形の草花が広がり、背景は現実の風景から離れた色面で埋められています。そして女性の顔のすぐ右側には、赤い翼をもつ小さなトカゲが浮かんでいます。

ゴーギャンはこの主題を気に入っていたようで、1893年にパリで発表したのち、版画や素描、モノタイプなど別の技法でも繰り返し取り上げています。同じ構図がさまざまな形で残っているのは、彼にとってこの図像が「タヒチ体験」を象徴するものだったからだと考えられています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:大原美術館(本館)
  • 所在地:岡山県倉敷市中央1-1-15(倉敷美観地区内、JR倉敷駅から徒歩約15分)
  • 展示状況:コレクション展「OHARAコレクション・ハイライト―19世紀から現代まで」の本館第1室で公開されています(2026年7月15日から9月27日の展示作品リストに掲載)
  • 観覧料:一般2,000円、小・中・高校生および18歳未満500円、未就学児無料。3月から11月は9時から17時(入館は16時30分まで)、12月から2月は9時から15時。月曜休館(祝日の場合などは変更あり)

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 翼のあるトカゲ:タヒチには蛇がいません。旧約聖書でイヴを誘惑する蛇の役を、翼のあるトカゲが担っているとみられ、この絵は「タヒチのイヴ」とも呼ばれます。
  • 花に伸ばされた手:知恵の実に手を伸ばすイヴの姿と重なる仕草です。楽園の物語がタヒチの風景に置き換えられています。
  • 現実から離れた色:輪郭線で囲まれた平坦な色面と、黄や赤紫を大胆に使った配色によって、この土地が実景ではなく想像の楽園として立ち上がります。

この絵が日本にある理由

大原美術館の西洋絵画コレクションは、倉敷出身の洋画家・児島虎次郎が、実業家の大原孫三郎の支援を受けてヨーロッパで買い集めたものが土台になっています。児島は1919年からの二度目の渡欧でモネ《睡蓮》やマティスの作品を持ち帰り、その公開が大きな反響を呼びました。

これを受けて大原はさらに収集を託し、1922年から始まる三度目の渡欧で、児島はエル・グレコ《受胎告知》やセガンティーニ《アルプスの真昼》とともに、この《かぐわしき大地》を購入しています。

児島は画商や美術館の評価をそのまま受け入れるのではなく、日本人の目で選ぶという姿勢を貫いた人でした。ゴーギャンが西洋の外に楽園を探しに出たように、児島もまた自分の感覚を頼りにヨーロッパの絵を選び取ったといえます。児島の死の翌年にあたる1930年、大原美術館が日本で最初の西洋美術中心の私立美術館として開館し、本作もその収蔵品として公開されるようになりました。

まとめ

ゴーギャン《かぐわしき大地》は、画家がタヒチで見つけた楽園像を、聖書の物語に重ねて描いた作品です。倉敷の本館第1室で、100年以上前に日本へ渡ってきた一枚を間近に見ることができます。展示替えがあるため、訪問前に公式サイトの展示作品リストを確認してください。