キリストの埋葬:カラヴァッジョが石の縁を鑑賞者に突き出した祭壇画
- 作者
- カラヴァッジョ
- 制作年
- 1603-04年
- 所蔵
- ヴァチカン美術館(ピナコテカ・ヴァティカーナ)
- 所在地
- ヴァチカン市国(ローマ)
カラヴァッジョが1603年から04年に描いた高さ3メートルの祭壇画。塗油の石にキリストの遺体が横たえられる直前を、闇と光の激しい対比で捉えます。ヴァチカン美術館の絵画館第12室にあり、ルーベンスやセザンヌらが模写を残しました。
《キリストの埋葬》は、カラヴァッジョが1603年から04年にかけて描いた大型の祭壇画です。十字架から降ろされたキリストの遺体が、塗油の石の上に横たえられようとする一瞬を捉えています。現在はヴァチカン美術館の絵画館(ピナコテカ・ヴァティカーナ)が所蔵しています。
キリストの埋葬とは
イタリア語の原題は「Deposizione」で、日本語では《キリストの埋葬》のほか《キリストの降架》とも訳されます。作者はミケランジェロ・メリージ、通称カラヴァッジョ(1571年ミラノ生、1610年ポルト・エルコレ没)。技法は油彩・カンヴァスで、ヴァチカン美術館の公式情報では寸法300×203センチ、目録番号は40386です。登場人物は5人。遺体の脚を抱えるのがニコデモ、上体を支えるのが福音書記者ヨハネで、その背後に聖母マリア、涙をこらえるマグダラのマリア、そして両腕を天へ突き上げるクロパの妻マリアが配されています。
どこで見られる?
- 所蔵先:ヴァチカン美術館 絵画館(ピナコテカ・ヴァティカーナ)
- 都市:ヴァチカン市国(イタリア・ローマ市内)
- 展示室:第12室(Sala XII)。17世紀の絵画を集めた部屋で、ドメニキーノやグイド・レーニ、プッサンの作品と同じ空間に展示されています
- 予約の要否:ヴァチカン美術館は日時指定のオンライン予約制です。公式サイトでチケットを確保してから訪れてください。絵画館は通常の入館券で観覧できます
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 前方へせり出す石板:画面下部の石は塗油の石で、その角が鑑賞者の側へ鋭く突き出しています。絵の外へ遺体が滑り出してくるかのような効果があり、祭壇の前に立つ信者に、自分が埋葬に立ち会っているかのような感覚を与えます。
- 上から下へ流れる構図:天へ伸びるクロパの妻マリアの両手から、うなだれた顔、ニコデモの視線、そして垂れ下がるキリストの腕へと、人物が斜めに積み重なって落ちていきます。悲嘆の身振りが上に、動かない肉体が下にという配置が、重力そのものを主題に変えています。
- 闇と光の劇的な対比:背景はほとんど描き込まれずに暗闇へ沈み、そこへ横から強い光が差し込みます。この光が蒼白いキリストの体とニコデモの背中を照らし出し、聖書の場面を、生身の人間が重い体を支える現実の労苦として浮かび上がらせています。
描かれた背景
この絵はもともと、ローマのサンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ聖堂(通称キエーザ・ヌオーヴァ)の右側二番目の礼拝堂を飾るために描かれました。注文したのはジローラモ・ヴィットリーチェで、この礼拝堂は、フィリッポ・ネリの信奉者だったピエトロ・ヴィットリーチェの創建によるものです。カラヴァッジョは埋葬という主題を伝統的なやり方では扱わず、遺体が石の上に置かれる直前の一瞬に絞り込みました。飾り立てた天上的な演出を排し、汗をかいた人間が重い体を支える労苦として描いたこの解釈は、当時としてはきわめて新しいものでした。作品は同時代以降の画家たちに強い影響を与え、ルーベンスをはじめフラゴナール、ジェリコー、セザンヌらが模写や翻案を残しています。1797年のトレンティーノ条約によってパリへ運ばれ、1816年にローマへ戻されて教皇ピウス7世の絵画コレクションに加えられました。現在キエーザ・ヌオーヴァの礼拝堂に掛かっているのは複製です。
寸法にも注意して見ておきたいところです。高さは3メートル、幅も2メートルほどあります。もともとは礼拝堂の祭壇の上に据えられ、床に立つ信者が下から見上げる位置に置かれていました。石板の角が手前へ突き出す構図も、この見上げる視線を前提に設計されたものと考えられます。現在の展示室では目線に近い高さで見ることになりますが、本来はもっと高い位置から遺体が降りてくるように見えたはずだと想像しながら眺めると、構図の狙いがつかみやすくなります。
まとめ
《キリストの埋葬》は、聖書の場面を人間の重さと労苦として描き切った、カラヴァッジョの代表作です。ヴァチカン美術館の絵画館第12室で見ることができます。システィーナ礼拝堂を目指す人が多いなかで見落とされがちな一角ですので、予約の際には絵画館を回る時間も見込んでおくことをおすすめします。