接吻:金箔に包まれた、クリムト黄金様式の頂点

接吻:金箔に包まれた、クリムト黄金様式の頂点

名画
作者
グスタフ・クリムト
制作年
1908年〜1909年
所蔵
ベルヴェデーレ(上宮)
所在地
オーストリア・ウィーン

グスタフ・クリムトが1908年から1909年に制作した180センチ四方の正方形の絵画。金箔・銀箔などを用いた黄金様式の代表作です。ウィーンの上宮ベルヴェデーレに常設され、貸し出されないためここでしか見られません。

「接吻」は、金色の装飾に包まれた男女が、花咲く崖の縁で抱き合う姿を描いたグスタフ・クリムトの代表作です。180センチ四方という正方形の大画面に、金箔や銀箔がふんだんに用いられ、実物は照明を受けて実際に光ります。ウィーンの上宮ベルヴェデーレに常設展示され、館外へ貸し出されないため、この作品に会えるのは世界でここだけです。

接吻とは

原題はドイツ語で Der Kuss(Liebespaar/恋人たち)。制作は1908年から1909年にかけてとされます。技法は下地を施したカンヴァスに油彩を主体とし、人物の領域には金箔・銀箔・プラチナ箔が貼り込まれ、背景には金属箔の細片が散らされています。絵具と金属という異質な素材を同じ画面で操るこの手法が、クリムトのいわゆる「黄金様式」を成立させました。

装飾をよく見ると、男性の衣には黒と白の直線的な矩形、女性の衣には色とりどりの円形や楕円が配され、二人の輪郭は一枚の金のマントに溶け合っています。抽象的な文様と、写実的に描かれた顔や手足が同居しているのが本作の際立った特徴です。父親が金工師だったクリムトにとって、金箔は単なる贅沢な材料ではなく、扱い慣れた表現の言語でした。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ベルヴェデーレ(Belvedere/オーストリア・ギャラリー ベルヴェデーレ)
  • 都市:オーストリア・ウィーン
  • 展示室:上宮ベルヴェデーレ(Oberes Belvedere)の「1900年前後のウィーン」を扱うクリムトの展示室。常設展示で、館外への貸し出しは行われていません
  • 予約:上宮の通常の入館券で鑑賞でき、追加料金は不要です。入館は時間指定制のため、公式サイトでの事前購入が確実です

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 足元の崖:二人が立つのは花畑ではなく、断ち切られた崖の縁です。女性のつま先が縁からわずかにはみ出しており、恍惚の場面に不穏さを差し込んでいます。
  • 女性の手の緊張:男性の首に添えられた手と、頬に触れる指先には、受容とも抵抗ともとれる力がこもります。恍惚だけで説明できない表情が、この作品を単純な愛の絵にしていません。
  • 実物でしか分からない光:金箔は角度によって反射が変わるため、立つ位置を少し変えるだけで画面の表情が変化します。印刷物では決して再現できない要素です。

描かれた背景

「接吻」は1908年にウィーンで開かれた大規模な美術展で公開され、その年のうちにオーストリアの当局が2万5千クローネで購入し、当時の近代美術館(後のオーストリア・ギャラリー ベルヴェデーレ)の所蔵となりました。発表直後に国家が買い上げるという扱いは、当時としては異例の高評価です。若い頃のクリムトは公共建築の装飾で名を成しましたが、その後は保守的な批評家との衝突が続いており、この購入は評価が定まった転機を示す出来事でもありました。

ベルヴェデーレは現在、クリムトの油彩を24点所蔵しており、これは世界最大のコレクションです。「接吻」だけでなく黄金様式の他の作品や同時代のウィーンの絵画とあわせて並ぶため、この一枚がどんな空気の中から生まれたのかを、同じ館内でたどることができます。

時代背景も見逃せません。20世紀初頭のウィーンは、保守的な帝国の首都でありながら、建築、音楽、文学、精神分析が同時に沸き立つ特異な都市でした。クリムトは既存の美術団体を離れて分離派を結成し、装飾と絵画、工芸と芸術の境目を取り払おうとします。「接吻」で金箔の装飾と写実的な身体が同じ画面に共存しているのは、その運動の理念がそのまま形になったものです。抱き合う二人が誰なのかについては、クリムト自身とパートナーのエミーリエ・フレーゲとする説が長く語られてきましたが、確証はありません。

まとめ

「接吻」は貸し出されない作品なので、実物を見るにはウィーンの上宮ベルヴェデーレへ行く以外にありません。バロック様式の宮殿が美術館になっているため、建物や庭園そのものも見応えがあります。時間指定の入館券を事前に確保し、金箔が最も輝く角度を探しながら、ゆっくり時間をかけて向き合ってみてください。