エトワール(舞台の踊り子):桟敷席から見下ろす一瞬のアラベスク
- 作者
- エドガー・ドガ
- 制作年
- 1876-77年頃
- 所蔵
- オルセー美術館
- 所在地
- フランス・パリ
ドガが1876年から77年ごろに制作したパステル画。舞台を高い位置から見下ろし、脚光を浴びる踊り子の一瞬をとらえた代表作です。オルセー美術館所蔵ですが、パステルは光に弱いため常設展示ではなく、公開の機会は限られます。
《エトワール》は、エドガー・ドガが1876年から77年ごろに制作したパステル画です。スポットライトを浴びて片脚を後ろへ上げる踊り子を、まるで桟敷席から身を乗り出したような高い視点でとらえています。パリのオルセー美術館が所蔵し、館の登録上の主題名は《バレエ》です。
《エトワール(舞台の踊り子)》とは
オルセー美術館での主題名はフランス語で「Ballet(バレエ)」、別名として「L'étoile(エトワール=花形)」「Danseuse sur scène(舞台の踊り子)」が併記されています。作者はエドガー・ドガ(1834年パリ生まれ、1917年パリ没)、制作年は1876年から1877年ごろ。技法はモノタイプの上にパステルで、寸法は高さ58.4センチ、幅42センチ。所蔵番号はRF 12258、1894年に没した画家ギュスターヴ・カイユボットの遺贈により、1896年に国家のコレクションへ入りました。
モノタイプとは、板の上に描いた絵具を紙へ一度だけ刷り取る技法です。ドガはこの刷り跡を下地に使い、その上からパステルで色と光を重ねました。版画と素描と絵画の境目にある、ドガならではの実験的な作り方です。
パステルは顔料を粘土などの白い物質とアラビアゴムなどの結合剤で棒状に固めた画材です。下地作りも乾燥時間も要らず、その場で色を置ける手軽さがある一方、粉が定着しているだけなので振動や擦れに弱く、湿気やカビにも弱いという弱点があります。オルセー美術館は、パステル画はガラスで保護し、光を落とした状態で展示しなければならないと説明しています。鑑賞するときに照明が暗く感じられるのは、そのためです。
どこで見られる?
- 所蔵先:オルセー美術館(Musée d'Orsay)
- 都市:フランス・パリ
- 展示室:本記事の調査時点では、オルセーの公式作品ページに「現在展示されていません」と表示されています。パステルについて美術館自身が、光に弱く、ガラスで保護したうえで照度を落として展示する必要がある繊細な素材だと説明しており、常時公開ではなく期間を区切った展示になります。訪問前に公式サイトの作品ページで公開状況を確認してください。
- 予約の要否:公式サイトで時間指定のオンラインチケットが販売されています。窓口購入もできますが、事前予約が安心です。
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 見下ろす視点:舞台を斜め上から見下ろす構図で、床面が画面の大きな部分を占めます。踊り子は中心からずれた位置に置かれ、観客席から偶然目にした一場面のような臨場感が生まれています。
- 袖に立つ黒服の男:左奥、書き割りの陰に黒い服の男性が上半身だけのぞかせています。顔は画面の外に隠され、正体は明かされません。華やかな舞台の背後にある人間関係を想像させる、この作品最大の余白です。
- パステルが生む光:踊り子の衣装は白・淡い緑・オレンジの粉を層にして塗り重ね、脚光の反射を表しています。荒く扱われた背景の書き割りと、細やかな主役の対比が際立ちます。
描かれた背景
ドガは1870年代からパリ・オペラ座の舞台と稽古場を繰り返し描きました。踊り子は当時、決して恵まれた身分ではなく、長時間の稽古に耐える職業人です。ドガは拍手を浴びる一瞬だけでなく、待機や疲労といった日常の側面まで観察し、同じ主題を手を変え品を変え描き続けました。
19世紀後半のパリ・オペラ座では、年間予約席を持つ有力な後援者たちが舞台裏へ立ち入る慣習がありました。画面左奥の黒服の男は、そうした人物のひとりと解釈されることが多く、拍手の届かない場所で舞台を支配していた力の存在を示す図像として読まれてきました。ただし人物が誰であるかを特定する記録はなく、あくまで解釈のひとつです。
オルセー美術館は、ドガがモノタイプの上にパステルを重ねる方法を発展させ、この素材の可能性を大きく広げた画家だと位置づけています。《エトワール》はその実験が最も鮮やかに結実した一枚です。作品はカイユボットの遺贈によってリュクサンブール美術館に入り、その後フランスの国立美術館の再編を経て、現在はオルセー美術館に収められています。
まとめ
《エトワール》は、モノタイプとパステルという異例の組み合わせで、舞台の一瞬の輝きを固定した作品です。素材が繊細なため常設展示ではなく、実物に会える機会は限られます。パリを訪れるなら、オルセー美術館の公式サイトで公開状況を確かめてから足を運んでください。
