ドガ「マネとマネ夫人像」:北九州にある、切り裂かれた友情の肖像

ドガ「マネとマネ夫人像」:北九州にある、切り裂かれた友情の肖像

名画
作者
エドガー・ドガ
制作年
1868〜1869年
所蔵
北九州市立美術館
所在地
福岡県北九州市

ドガが友人のマネ夫妻に贈った肖像画です。夫人の顔の部分がマネの手で切り取られ、それを見たドガが怒って絵を持ち帰ったと伝えられています。断ち切られた画面がそのまま残る一枚を、北九州市立美術館のコレクション展で一般300円で見られます。

エドガー・ドガの《マネとマネ夫人像》は、福岡県の北九州市立美術館が所蔵する油彩画です。ドガが友人のエドゥアール・マネ夫妻を描いて贈った肖像画ですが、画面の右側が不自然に断ち切られています。そこには、印象派の画家どうしの有名な仲たがいの話が残っています。同館のコレクション展で公開されています。

《マネとマネ夫人像》とは

制作年は1868年から69年ごろ。技法はキャンバスに油彩で、大きさは65.0×71.0センチメートルです。描かれているのは、ピアノを弾くマネ夫人と、それを聴きながらソファに身をあずけるマネという室内の場面です。ドガはこの絵を友人夫妻に贈りました。

ところが同館の解説によれば、この絵は夫人の顔を隠すように切り取られています。伝えられているところでは、夫人の描かれ方に満足しなかったマネがキャンバスを切ってしまい、後日それを見たドガが怒って絵を持ち帰ったといいます。現在のキャンバスの右側は、画家の死後に画商によって継ぎ足されたものと推測されています。

結果として、この絵はふつうの肖像画ではなくなりました。マネの気だるい姿勢はそのままに、その視線の先にいるはずの人物が半分消えている。友人どうしが互いの妻や絵をどう見ていたか、そして画家がどれほど自分の描いた顔にこだわったかが、切断面という物理的な形で残っているわけです。美術史の本でしばしば紹介されるエピソードの現物が、日本にあります。

ドガとマネは、1860年代のパリで互いに一目置き合っていた画家どうしでした。ドガは踊り子や競馬といった都市の生活を主題にし、他の印象派の画家と違ってアトリエでの制作を好んだ人です。この絵にも、屋外の光を追いかける絵画とは違う、室内の落ち着いた空気が流れています。制作は1868年から69年ごろ、第1回印象派展が開かれる数年前のことでした。

どこで見られる?

  • 所蔵先:北九州市立美術館 本館(コレクション展で公開)
  • 所在地:福岡県北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21番1号
  • 展示状況・観覧料:コレクション展のなかで、特集を組み替えながら公開されます。観覧料はコレクション展が一般300円、高校生・大学生200円、小中学生100円(いずれも割引適用時は240円・160円・80円)。開館時間は9時30分から17時30分(入館は17時まで)、休館日は月曜日と年末年始で、月曜日が祝日・振替休日の場合は翌平日が休館です。
  • 展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 断ち切られた右側:夫人の顔があったはずの部分が切り取られ、後から継ぎ足されています。絵そのものが事件の証拠になっている珍しい一枚です。
  • マネの姿勢:ソファに寄りかかり、片手を顔にあてて音楽を聴く姿は、肖像画にしてはくつろぎすぎています。友人の家を訪ねた画家が見たままの光景です。
  • 抑えた色づかい:黒や灰、褐色を中心にまとめられた室内で、初期のドガが古典的な肖像画の勉強を積んでいたことがうかがえます。

この絵が日本にある理由

北九州市立美術館は1974年に開館した、西日本の公立美術館の先駆けにあたる館です。建物は建築家の磯崎新が設計し、丘の上から2本の筒が突き出す独特の外観で知られています。コレクションは、前身の八幡市美術工芸館から引き継いだ作品を土台にしながら、印象派を中心とした西洋近代美術と日本近代美術の両方を集めてきました。

同館はドガの作品を複数所蔵しており、この油彩のほかにモーパッサン『メゾン・テリエ』のための版画も持っています。ひとりの画家を油彩と版画の両面から見せられるところに、長く収集を続けてきた館の厚みがあります。福岡の工業都市に印象派の重要作があるのは偶然ではなく、開館から半世紀にわたる収集方針の結果です。

まとめ

《マネとマネ夫人像》は、ドガが友人夫妻を描き、その友人に切られてしまったという逸話つきの一枚です。断ち切られた画面という形で、二人の画家の関係がそのまま残っています。北九州市立美術館のコレクション展で一般300円で見られ、磯崎新の建築そのものも見どころです。教科書で読んだ話の現物に会いに行けるという意味で、日本で見られる西洋絵画のなかでも特別な作品です。