フラ・アンジェリコ:修道院の壁に天上の光を描いた、「天使のような修道士」

フラ・アンジェリコ:修道院の壁に天上の光を描いた、「天使のような修道士」

画家

祈りながら筆を執り、涙を流しながらキリストを描いたと伝わるドミニコ会修道士。サン・マルコ修道院の「受胎告知」は、静けさと清らかさにおいて西洋美術の頂点に立ち続けています。

はじめに:画家である前に、祈る人

フラ・アンジェリコ(1395頃-1455)は、初期ルネサンスのフィレンツェで活動したドミニコ会修道士の画家です。本名はグイド・ディ・ピエトロ。「フラ・アンジェリコ(天使のような修道士)」の名は、その清らかな画風と人柄への敬意から死後に定着しました。教会は1982年に彼を福者に列し、その後、芸術家の守護聖人としています。

生涯:ムジェッロの村から、ヴァチカンの礼拝堂へ

フィレンツェ近郊ムジェッロ地方のヴィッキオ付近に生まれ、若い頃からフィレンツェで写本装飾や板絵の修業を積んだと考えられています。二十代でフィエーゾレのドミニコ会修道院に入り、修道名フラ・ジョヴァンニを名乗りました。以後、画家であることと修道士であることは彼の中で分かれません。

1430年代末、コジモ・デ・メディチの財政支援でフィレンツェのサン・マルコ修道院が大改築されると、アンジェリコは工房を率いてその内部装飾を担いました。回廊、参事会室、そして修道士たちが暮らす40以上の僧房——建物全体が一つの絵画作品と言える規模です。

その名声は教皇庁にも届き、1445年頃にはローマへ招かれ、教皇ニコラウス5世の私的礼拝堂にフレスコ画を描きました。1447年にはオルヴィエート大聖堂の礼拝堂の仕事にも着手しています。フィエーゾレ修道院の院長も務めた彼は、1455年、ローマで没し、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会に葬られました。

画風の特徴:新しい遠近法と、古い黄金

アンジェリコの画風を一言でいえば「引き算」です。同時代のフィレンツェでは、ブルネレスキが線遠近法を体系化し、マサッチオがそれを絵画に持ち込んで劇的な立体表現を実現していました。アンジェリコもこの新しい空間の科学を完全に理解しています。サン・マルコの「受胎告知」の回廊は、正確な一点透視で奥行きを持っています。

しかし彼はその空間に、余計なものを一切置きませんでした。人物は静止し、身振りは最小限で、色は白、淡い桃色、澄んだ青に絞られます。科学的な空間の中に、装飾を削ぎ落とした祈りの静けさを置く——これがアンジェリコを他の誰とも違う画家にしている点です。一方、教会に納める祭壇画では中世以来の金地と、最高級の顔料であるラピスラズリの青を惜しみなく使い、天上の輝きを表しました。革新と伝統が、彼の中では矛盾なく同居しています。

代表作

  • 受胎告知(1440年代/サン・マルコ美術館〈旧サン・マルコ修道院〉、フィレンツェ)——階段を上がった正面の壁に現れるフレスコ画。簡素な回廊で天使とマリアが静かに向かい合うだけの画面です。修道士たちが毎日この前を通って瞑想した、その場所で今も見られます。
  • 僧房のフレスコ連作(1438-45年頃/サン・マルコ美術館)——修道士の小部屋一つ一つに、瞑想のための場面が一つずつ描かれています。美術館ではなく生活と祈りの場に描かれた絵の、原点の形です。
  • 受胎告知(1426年頃/プラド美術館、マドリード)——金地と楽園の描写を伴う初期の祭壇画。サン・マルコの簡素な同主題と比べると、彼の歩んだ距離がわかります。
  • 聖母戴冠(ルーヴル美術館、パリ)——金と青を尽くした荘厳な祭壇画。天上の輝きの表現です。
  • ニッコリーナ礼拝堂のフレスコ(1447-49年頃/ヴァチカン宮殿)——教皇ニコラウス5世のための私的礼拝堂。聖ステファノと聖ラウレンティウスの生涯を描いた、円熟期の代表作です。

同時代の画家たちとの関係

修業時代の師は特定されていませんが、ゴシック的な優美さを残すロレンツォ・モナコの工房との関係が指摘されます。同じフィレンツェの同世代には、革新的な立体表現で美術史を動かしたマサッチオがいました。同じ街の同じ時代に、劇的な人間を描いたマサッチオと、静かな祈りを描いたアンジェリコという二つの道が並走したことになります。工房の助手からはベノッツォ・ゴッツォリが育ち、オルヴィエートやヴァチカンの仕事をともにしました。後年の伝記作家ヴァザーリは、アンジェリコが涙を流しながらキリストの磔刑を描いたと伝えています。

日本で見られるか

残念ながら、日本国内にフラ・アンジェリコの主要作品はほとんどありません。彼の代表作の多くはフレスコ画で、そもそも壁から動かせないためです。祭壇画も欧米の主要館が押さえています。日本で初期ルネサンスの空気に触れたいなら、国立西洋美術館の初期イタリア絵画のコーナーが出発点になります。アンジェリコ本人の作品に会うには、フィレンツェのサン・マルコ美術館を訪ねるのが最善であり、しかもそこは彼が絵を描いた当の場所です。

見どころ

実物の前では、まず「音のなさ」を味わってください。アンジェリコの画面には風も動きもありません。展示室の喧騒の中でも、絵の前だけ時間が止まる感覚を確かめてみてください。次に光の方向。サン・マルコの僧房では、実際の窓から差し込む光の向きと、絵の中の光の向きが一致するよう設計されています。絵が部屋の一部として描かれていることの証拠です。そして。マリアのマントに使われたラピスラズリは、当時金より高価な顔料でした。その青がどこに、どれだけ使われているかを見れば、この絵が誰に向けられたものかがわかります。

代表作ギャラリー

受胎告知(サン・マルコ修道院)
受胎告知(サン・マルコ修道院)1440年頃サン・マルコ美術館
受胎告知(プラド)
受胎告知(プラド)1426年頃プラド美術館
聖母戴冠
聖母戴冠1435年頃ルーヴル美術館
受胎告知 (フラ・アンジェリコ、マドリード)
受胎告知 (フラ・アンジェリコ、マドリード)1420年Prado Hall 056B
東方三博士の礼拝 (フラ・アンジェリコとフィリッポ・リッピ)
東方三博士の礼拝 (フラ・アンジェリコとフィリッポ・リッピ)1430年ナショナル・ギャラリー・オブ・アート
謙譲の聖母 (フラ・アンジェリコ)
謙譲の聖母 (フラ・アンジェリコ)1433年カタルーニャ国立美術館
聖母戴冠 (フラ・アンジェリコ、ウフィツィ)
聖母戴冠 (フラ・アンジェリコ、ウフィツィ)1434年ウフィツィ美術館
フィエーゾレの祭壇画
フィエーゾレの祭壇画1420年サン・ドメニコ修道院

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)