歌川国芳:巨大骸骨から猫の戯画まで、江戸のポップカルチャーを牽引した奇想の浮世絵師

歌川国芳:巨大骸骨から猫の戯画まで、江戸のポップカルチャーを牽引した奇想の浮世絵師

画家

迫力満点の武者絵で一躍人気となり、猫の擬人化や巨大骸骨の妖怪画まで、自由奔放なアイデアで江戸っ子を熱狂させた歌川国芳。幕府の規制さえ笑いに変えた、反骨とユーモアの浮世絵師の生涯。

はじめに:江戸のエンターテイナー、「奇想」の絵師

歌川国芳(1798-1861)は、江戸時代末期に活躍した浮世絵師です。ダイナミックな武者絵、ユーモアあふれる戯画、西洋画の技法を取り入れた風景画まで、そのレパートリーの広さと発想の奇抜さは浮世絵師の中でも群を抜いています。現代では「奇想の絵師」として再評価され、国内外で展覧会が相次ぐ人気ぶりです。

生涯:遅咲きのブレイクと、反骨のユーモア

江戸・日本橋の染物屋の家に生まれた国芳は、少年期から絵の才を見せ、初代歌川豊国に入門します。しかし兄弟子の歌川国貞(三代豊国)が早くから売れっ子となる一方、国芳には長く不遇の時期が続きました。一時は絵筆を置いて古着の商いをしていたとも伝えられます。

転機は30歳頃、中国の物語『水滸伝』の豪傑たちを迫力満点に描いたシリーズが大ヒットし、「武者絵の国芳」の名を確立したことでした。以後は歴史画、妖怪画、風景画、美人画と縦横に手を広げます。

1841年に始まる天保の改革で役者絵や美人画が厳しく規制されると、国芳は猫や金魚を擬人化した戯画や、判じ絵のような風刺画で規制の網をかいくぐり、江戸っ子の喝采を浴びました。役者の顔を落書き風に描いた作品が咎めを受けたこともありますが、こうした反骨がかえって人気を高めます。大の猫好きとしても知られ、懐に猫を入れて絵を描いていたという逸話も残っています。1861年、65歳で没しました。

画風の特徴:三枚続きを一枚の舞台にする

国芳の最大の発明は、三枚続きの錦絵を三つの独立した画面としてではなく、横長の一枚の大画面として使い切ったことです。巨大な骸骨や鯨、大波が三枚をまたいで暴れる構図は、当時の観者にとって前例のない迫力でした。

また、輸入された西洋の銅版画から陰影法や遠近法を学び、風景画に取り入れています。人体の筋肉や刺青の描写、水しぶきや炎の表現も執拗なほど細かく、その一方で戯画では線を極端に単純化する——この振れ幅の大きさが国芳の持ち味です。

代表作

  • 相馬の古内裏(1845-46年頃/千葉市美術館、東京富士美術館ほか):画面いっぱいに巨大な骸骨の妖怪が現れる代名詞的な三枚続き。原作では多数の骸骨が登場する場面を、一体の巨大骸骨に置き換えた構成力が光ります。
  • 通俗水滸伝豪傑百八人之一箇(1827年頃~):『水滸伝』の豪傑を一人ずつ描いた出世作。刺青をまとった英雄たちの筋肉表現は、当時の刺青ブームにも影響を与えたといわれます。
  • 金魚づくし(1842年頃):金魚たちが人間さながらに歌い、遊び、肝試しをする戯画シリーズ。キャラクター表現の豊かさは、現代の漫画やアニメの源流のひとつとも評されます。
  • 其まゝ地口 猫飼好五十三疋:東海道五十三次の宿場名を猫の駄洒落に置き換えた戯画。国芳の猫好きと言葉遊びの才が同時に爆発した一点です。
  • 宮本武蔵の鯨退治(1847年頃):三枚続きを丸ごと使い、荒海の巨鯨と武蔵を対峙させた大作です。
  • 同時代の絵師との関係

    国芳は初代豊国門下で、同門の兄弟子に美人画・役者絵の名手歌川国貞がいます。「国貞の美人、国芳の武者」と並び称され、風景画の歌川広重と合わせて幕末歌川派の三本柱をなしました。門下からは血みどろ絵で知られる月岡芳年、新聞錦絵の落合芳幾らが育ち、若き日の河鍋暁斎も国芳のもとで学んでいます。その系譜は近代の日本画壇や挿絵の世界にまで続きました。

    日本で見られるか

    国芳は木版の錦絵ですので、良質の摺りを所蔵する国内の館は数多くあります。太田記念美術館(東京・原宿)は浮世絵専門館として国芳の企画展を繰り返し開いており、千葉市美術館東京富士美術館東京国立博物館なども代表作を所蔵しています。錦絵は光に弱く常設展示されないため、展覧会情報をこまめに確認するのがおすすめです。

    見どころ:実物の前で何を見るか

    • 三枚のつなぎ目をまたぐ形:骸骨の頭や鯨の背が紙をまたいでいるか確認すると、構図の大胆さが実感できます。
    • 背景の小さな笑い:主役の脇に必ずといっていいほど、ふざけた小動物や表情が仕込まれています。
    • 摺りの技:黒の艶出し、布目摺り、空摺りなど、彫師と摺師の技も画面の一部です。

    まとめ

    国芳は、規制も不遇も笑いに変えて、江戸のポップカルチャーを牽引した絵師です。その自由さは、200年後の私たちが見ても少しも古びていません。

代表作ギャラリー

相馬の古内裏
相馬の古内裏1845年頃
宮本武蔵の鯨退治
宮本武蔵の鯨退治1847年頃
大納言行成女
大納言行成女1842年アシュモレアン博物館
牛若丸僧正坊隋武術覚図
牛若丸僧正坊隋武術覚図1851年
山海愛度図会・つづきが見たい
山海愛度図会・つづきが見たい東京国立博物館
通俗水滸伝豪傑百八人之壹人 浪裡白跳張順
通俗水滸伝豪傑百八人之壹人 浪裡白跳張順東京国立博物館
Three Beauties Playing Musical Instruments
Three Beauties Playing Musical Instruments1830年メトロポリタン美術館
Fourth Print from A Low Tide Pentaptych
Fourth Print from A Low Tide Pentaptych1830年クリーヴランド美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)