ディエゴ・リベラ:民衆のための絵画を掲げ、メキシコの壁に革命の歴史を刻んだ壁画運動の巨人

ディエゴ・リベラ:民衆のための絵画を掲げ、メキシコの壁に革命の歴史を刻んだ壁画運動の巨人

画家

イタリアでフレスコ技法を学び、メキシコに帰国して「民衆のための芸術」を掲げたディエゴ・リベラ。公共の壁に先住民の歴史と労働者の尊厳を描き続けた、メキシコ壁画運動の中心的存在。

ディエゴ・リベラ(1886-1957)は、メキシコの画家です。「メキシコ壁画運動(ムラリスモ)」の中心人物として知られます。彼は美術館という限られた空間に収まる絵画に飽き足らず、政府庁舎や学校といった誰もが行き交う公共の壁に、巨大なフレスコ画を描くことを選びました。そこに描かれたのは、スペイン征服以前の先住民文明の栄光、メキシコ革命の熱狂、そして工場や畑で働く名もなき労働者たちです。美術を特権階級から民衆の手へ取り戻すという、彼の信念そのものでした。

生涯

1886年、メキシコ中部のグアナフアトに生まれました。幼くしてメキシコシティのサン・カルロス美術学校で学び、1907年に奨学金を得てヨーロッパへ渡ります。スペインを経てパリに落ち着き、1910年代にはピカソやフアン・グリスと交わってキュビスムの実験に加わりました。しかし1917年ごろにキュビスムと決別し、セザンヌの研究へ向かいます。

決定的な転機は1920年から翌年にかけてのイタリア旅行でした。ジョットら初期ルネサンスのフレスコ壁画を実見し、「大衆に語りかける絵画」の可能性を確信します。1921年に帰国したリベラは、文部大臣ホセ・バスコンセロスの壁画事業に加わり、公教育省(1923-28年)やチャピンゴ自治大学の礼拝堂(1924-27年)、国立宮殿の階段室(1929年着手)に大作を連ねました。

1930年代にはアメリカでも制作し、デトロイト美術館の中庭を囲む《デトロイトの産業》(1932-33年)を完成させます。一方、1933年にニューヨークのロックフェラーセンターに描いた壁画は、レーニンの肖像を描き入れたことが問題視され、翌1934年に破壊されました。私生活では1929年に21歳年下の画家フリーダ・カーロと結婚し、1939年に離婚、1940年に再婚しています。1957年、メキシコシティで没しました。

画風の特徴

技法は本格的なブオン・フレスコ(湿式フレスコ)です。漆喰が乾く前に顔料を染み込ませるため、一日で描き切れる範囲を計画して連日積み上げていきます。人物はどっしりと丸みを帯び、褐色の肌と大きな手足で「働く体」の量感を強調します。色は赤土、黄土、藍、そして深い緑。無数の人物を層状に積み上げる構成は、キュビスム期に培った画面分割の感覚と、イタリア・フレスコの物語構成が合わさったものです。

代表作

  • メキシコの歴史(1929年着手、メキシコ国立宮殿):階段室と回廊を埋め尽くす壁画群。先住民文明からスペイン征服、独立戦争、革命までの通史を、無数の群像で描いた代表作です。
  • デトロイトの産業(1932-33年、デトロイト美術館):フォードの工場を主題に、機械と労働者の身体を一体の生命体のように描いた27面の壁画。リベラ自身が最良の作と語ったとされる大作です。
  • アラメダ公園の日曜日の午後の夢(1946-47年、ディエゴ・リベラ壁画館):骸骨姿の女性「カトリーナ」を中心に、メキシコ史の人物を一堂に集めた幻想的な群像。もとはホテル・デル・プラドの壁画で、1985年の大地震後に現在の壁画館へ移設されました。
  • 宇宙の支配者たる人間(1934年、メキシコ、芸術宮殿):破壊されたロックフェラーセンター壁画《十字路に立つ人間》を、リベラがメキシコで描き直したもの。芸術と権力の緊張を象徴する作品です。

同時代の画家との関係

ダビッド・アルファロ・シケイロス、ホセ・クレメンテ・オロスコとともに「メキシコ壁画運動の三巨匠」と称されます。ただし三人は一枚岩ではなく、シケイロスとは芸術と政治の方針をめぐって激しく論争しました。妻フリーダ・カーロとは互いの制作を尊重し合う一方、双方の恋愛関係が絶えない複雑な間柄でした。日本の画家・北川民次はメキシコで学び、リベラら壁画運動の空気を日本へ持ち帰っています。

日本で見られるか

壁画は動かせないため、日本で見られるのは油彩・素描・版画です。名古屋市美術館はメキシコ・ルネサンスのコレクションを持ち、リベラの作品を収蔵しています。国内で所蔵が確認できるのは名古屋市美術館です。国内に大壁画はありませんが、名古屋市美術館のコレクション展で小品に出会える機会があります。

見どころ

壁画を前にしたら、まず全体を遠くから眺めて物語の流れをつかみ、次に一人ひとりの顔を追ってください。リベラの群像には、実在の政治家や芸術家、そして名もなき農民が同じ大きさで並んでいます。誰が中心に置かれ、誰が隅に押しやられているかが、そのまま彼の歴史観です。小品を見る際は、褐色の肌に置かれた青や緑の反射光に注目すると、色彩画家としての腕前がよくわかります。

代表作ギャラリー

Portrait of Ramón Gómez de la Serna
Portrait of Ramón Gómez de la Serna1915年マルバ美術館
Still Life
Still Life1913年エルミタージュ美術館
Still Life with a Liqueur Bottle
Still Life with a Liqueur Bottle1915年クレラー・ミュラー美術館
The Meager Table
The Meager Table1917年アムステルダム市立美術館
Still Life with Green House
Still Life with Green House1917年アムステルダム市立美術館
Le bock (Beer Glass)
Le bock (Beer Glass)1917年ソフィア王妃芸術センター
Cheminée (Chimney)
Cheminée (Chimney)1913年ソフィア王妃芸術センター
Composition with clock
Composition with clock1914年ブエノスアイレス国立美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)