ルネ・マグリット:「これはパイプではない」と問いかけた、シュルレアリスムの静かな哲学者

ルネ・マグリット:「これはパイプではない」と問いかけた、シュルレアリスムの静かな哲学者

画家

山高帽の紳士然とした日常を送りながら、イメージと言葉のパラドックスを描き続けたマグリット。「イメージの裏切り」で20世紀美術と哲学に衝撃を与えたベルギー・シュルレアリスムの中心人物。

はじめに:見慣れたものに潜む違和感

ルネ・マグリット(1898-1967)は、ベルギー・シュルレアリスムを代表する画家です。パイプや山高帽の男、りんごといったごくありふれたモチーフを、ありえない文脈に配置することで、見る者に「見ることの不確かさ」を突きつけました。奇抜な私生活を送った同時代の画家たちとは対照的に、日中はきちんとしたスーツを着て自宅の食堂で規則正しく制作するという「銀行員のような」ブルジョワ的な日常を送っていた人物です。

生涯:静かな日常の裏にあった波乱

ベルギーのレシーヌに生まれたマグリットは、1922年、詩人を通じてジョルジョ・デ・キリコの作品の複製を見て衝撃を受け、「初めて思考を目にした」と語りました。1926年に最初のシュルレアリスム的作品を制作し、1927年からパリに移住してアンドレ・ブルトンらと交流します。1930年にブリュッセルへ戻り、以後は生涯をこの地で過ごしました。戦後の生活苦の時期には、生活費を稼ぐためピカソやデ・キリコらの贋作を密かに制作し、さらに弟や盟友と共謀して偽紙幣まで製造していたことが、1988年になって初めて明らかになっています。1967年、膵臓癌のためブリュッセルで没しました。

3つの代表作解説

  • イメージの裏切り(これはパイプではない)(ロサンゼルス・カウンティ美術館): パイプの絵に「これはパイプではない」と書き添えた概念的傑作。哲学者ミシェル・フーコーが同名の評論を著すなど、20世紀美術と哲学に多大な影響を与えました。
  • 人の子(個人蔵): 山高帽の男の顔を緑のりんごが隠す自画像的作品。「私たちが目にするものはすべて別の何かを隠している」というマグリットの言葉で知られています。
  • 光の帝国(ニューヨーク近代美術館ほか): 昼の空と夜の街路が同一画面に同居する作品で、油彩・グワッシュあわせて約27点ものバリエーションが存在します。単一の「原画」は存在しない点に注意が必要です。