ジョージア・オキーフ:巨大な花と砂漠の骨、アメリカの大地に生きた20世紀美術の母
画面いっぱいに拡大された花、ニューメキシコの荒野に転がる動物の骨。誰の真似でもない絵を描き続け、98歳まで生きたジョージア・オキーフ。「アメリカ近代美術の母」と呼ばれる女性画家の凛とした生涯。
はじめに:誰の真似でもない、自分の絵を
ジョージア・オキーフ(1887-1986)は、20世紀アメリカを代表する画家です。画面からあふれ出すほど大きく拡大された花、ニューメキシコの砂漠に白く光る動物の頭蓋骨、簡潔な形に還元された山と空。ヨーロッパの流行に追従しない絵画をつらぬき、「アメリカ近代美術の母」とも呼ばれます。98年の生涯を通じて、自立した芸術家の姿を体現した人でもありました。
生涯:スティーグリッツとの出会い、そして砂漠へ
オキーフは1887年、ウィスコンシン州の農場に生まれました。シカゴ美術館附属美術学校とニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグで学びますが、模写中心の教育になじめず一時は絵を離れます。転機となったのが、バージニア大学とコロンビア大学で出会ったアーサー・ウェズリー・ダウの教えでした。対象を写すのではなく、線と形と余白で画面を構成するというその考え方(東洋美術に学んだものでした)が、彼女を抽象的な木炭ドローイングへ導きます。
テキサスで美術教師をしていた1916年、その木炭画を友人がニューヨークの写真家・画廊主アルフレッド・スティーグリッツに見せました。彼は本人に無断で「291」画廊に展示してしまいますが、これが世に出るきっかけとなります。二人はやがて結ばれ、1924年に結婚。スティーグリッツはオキーフを撮った数百点に及ぶ写真連作を発表し、彼女は「見られる存在」としても有名になりました。
1920年代、彼女は摩天楼の連作と、花を極端にクローズアップした連作で注目を集めます。しかし1929年に初めて訪れたニューメキシコの荒野に強く惹かれ、以後は毎夏を同地で過ごすように。1946年にスティーグリッツが亡くなると、ニューメキシコに永住し、アビキュー村と「ゴーストランチ」の家を拠点に、砂漠の光と骨と山を描き続けました。晩年は視力が衰えて陶芸にも取り組み、1986年、サンタフェで98歳の生涯を閉じています。
画風の特徴:拡大と、単純化
オキーフの方法は二つの言葉で言い表せます。拡大と単純化です。小さな花を人の顔ほどの大きさに引き伸ばせば、忙しく通り過ぎる人でも立ち止まらざるをえない——彼女自身がそう説明しています。そして拡大された対象からは、細部が削ぎ落とされ、なめらかな曲面と色の面だけが残る。筆跡をほとんど残さない平滑な塗りと、白から灰、赤茶へと移るニューメキシコの土の色調は、具象でありながら抽象画のように見えます。花を性的に解釈する批評が繰り返されたことに対し、オキーフ本人は生涯、それを認めませんでした。
代表作
- ジムソンウィード/白い花No.1(1932年、クリスタル・ブリッジズ・アメリカ美術館、アーカンソー州):白いチョウセンアサガオを大きく描いた代表作。2014年のオークションで、女性画家の作品として当時の史上最高額を記録しました。
- 牛の頭蓋骨:赤・白・青(1931年、メトロポリタン美術館、ニューヨーク):砂漠で拾った牛の頭蓋骨を、星条旗を思わせる配色のなかに据えた作品。「アメリカらしさ」への彼女なりの答えとされます。
- ラディエーター・ビル、夜のニューヨーク(1927年):都市を描いた時期の代表作。摩天楼を単純な黒い塊と光の点で構成しています。
- 雄羊の頭と青いアサガオ(1938年、ジョージア・オキーフ美術館):骨と花を空中に浮かべ、遠景に丘を置く、ニューメキシコ期の典型的な構成です。
- ペダーナル山の連作:ゴーストランチから望む平らな頂の山を、彼女は繰り返し描きました。遺灰はこの山に撒かれています。
同時代の画家との関係
スティーグリッツの画廊に集まった仲間たち——アーサー・ダヴ、マースデン・ハートリー、ジョン・マリン、チャールズ・デムスら——が、オキーフにとっての同時代人でした。なかでも自然の形から抽象を導き出したアーサー・ダヴを、彼女は早くから高く評価しています。写真家との関係も深く、後年はアンセル・アダムスと連れ立ってニューメキシコを撮り歩きました。ヨーロッパのモダニズムを輸入するのではなく、アメリカの土地そのものから近代絵画を立ち上げようとした点で、彼女はこの世代の中心にいました。
日本で見られるか
オキーフの主要作の大半はアメリカにあり、サンタフェのジョージア・オキーフ美術館が最大のコレクションを持っています。日本国内の所蔵はごく限られますが、東京国立近代美術館がニューメキシコを主題とした作品を、愛知県美術館もオキーフ作品を所蔵しています。いずれも常設展示室で必ず出ているわけではないため、公開情報を確認してから出かけるとよいでしょう。1993年には横浜美術館で大規模な回顧展が開かれています。
見どころ:実物の前で何を見るか
まず絵に近づいて、筆跡を探してみてください。ほとんど見つからないはずです。この「手の痕跡のなさ」が、彼女の画面に人工物めいた静けさを与えています。次に一歩下がって、画面を白黒写真のように見る。花でも骨でも山でも、明るい面と暗い面だけで見事に構成されていることが分かります。そして色の移り変わり。花びらのごくわずかなグラデーションのなかに、オキーフが何日もかけた仕事が沈んでいます。
代表作ギャラリー








作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)

